シカの天敵だったニホンオオカミが絶滅し、代わりを担う猟師も高齢化に伴って激減したことなどが個体数の増加を招き、食害被害が顕著に。林内では、シカが好むササやアザミなどの植物が激減した一方、バイケイソウなどシカが食べない植物ばかりが繁殖し、植生の衰退が起きているという。植生の変化は林内の河川の環境や土壌にも影響を与えており、石原准教授は「生態系自体が変わりつつある」と危機感を募らせる。
10年以上にわたって研究林に足を運んでいる植物研究家の福本繁さんも「森の姿が様変わりしている」と現状を説明。「今や本来の植生は研究林内の限られた場所にしか残っていない」とまで言う。
プロジェクト始動も
シカの食害被害から生態系を守ろうと、平成18年には林内の一部を防鹿(ぼうろく)柵で囲んで保護する「芦生生物相保全プロジェクト(ABCプロジェクト)」が始動した。中心となる京都大の高柳敦講師(野生動物保全学)はプロジェクトの趣旨を「シカの影響を検証しながら、芦生の植物種を守るのが目的」と話す。
同年6月、プロジェクトチームは総延長約1・5キロにわたる柵で林内の1つの谷を囲んだ。シカの侵入を防ぐことに成功し、柵内の植生は数年で回復したが、シカも柵の奥の食料にありつこうと柵内に入り込む方法を模索。数年たつとネットが食いちぎられ、柵内への侵入を許してしまった。