イリノイ大学のエド・ディーナー博士は、これまでに公表された幸福と寿命に関する160本以上の調査研究論文を分析し、幸せな人は不幸せな人に比べて平均9.4年も長生きする可能性を示唆している。
確かに自分が幸福であると感じている人の方が、健康的な食事やライフスタイルを選択するチャンスが高いだろう。しかし幸福を感じることが脳の中でどのような神経細胞を活性化させ、どのように健康長寿をもたらしている機序に関してはあまり良く理解されていない。
そんな中、京都大学医学部の佐藤弥博士らの研究グループは幸せを感じている人は右脳の頭頂葉内側の楔前部と呼ばれる領域の容積が大きいことを発見し話題を呼んでいる。
研究グループは平均年齢22歳の健常人男女51名を対象に、概してどのくらい幸せであるか、感情をどれほど強く感じるか、生活にどれほど満足しているかという主観的幸福度を調査後、脳MRI(磁気共鳴画像)で脳の部位別容積を計測し幸福度との関連性を検討した。
分析の結果、幸福の度合いが高いほど、右脳の楔前部の灰白質容積が大きいことを明らかとした。これまでの神経生理学では楔前部は視空間イメージやエピソード記憶の再生などの機能に関与することが知られていたが、幸福度と関連することは知られていなかった。
興味深いことに、幸福度の調査でポジティブな感情を強く感じると答えた人ほど同部位の容積は大きかったが、逆にネガティブな感情を強く感じると答えた人は楔前部の灰白質容積が小さいことも分かった。
認知症の代表であるアルツハイマー病では初期に頭頂葉に病変が出現することが知られているので、認知症を発症するとその初期から幸福を感じづらくなっているかも知れない。アリストテレスが取り組んできた「幸福とは何か」という疑問に対して科学的解答が与えられたようだ。
しらさわ・たくじ 1958年神奈川県生まれ。1982年千葉大学医学部卒業後、呼吸器内科に入局。1990年同大大学院医学研究科博士課程修了、医学博士。1990年より2007年まで東京都老人総合研究所病理部門研究員、同神経生理部門室長、分子老化研究グループリーダー、老化ゲノムバイオマーカー研究チームリーダー。2007年より2015年まで順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座教授。2015年より白澤抗加齢医学研究所所長。日本テレビ系「世界一受けたい授業」など多数の番組に出演中。著書は「100歳までボケない101の方法」など300冊を超える。
