初心者が空手の「型」を練習すると、脳の前頭葉領域が活性化 九州工業大学・夏目氏らが検証

沖縄を発祥の地とし、近代以降、日本全国へ広まった格闘技、空手。2021年に開催された東京2020オリンピックでは初めて正式種目として採用されたことも記憶に新しいが、実はその競技者人口は格闘技の中でもトップクラスであり、愛好者は世界で1億3000万人以上だという(2024年時点、全日本空手連盟HPより)。空手には「型」と「組手」があるが、 「型」は仮想の相手を想定した動作パターンであり、空手の根幹でもある。

九州工業大学 大学院生命体工学研究科・夏目季代久教授と運動脳科学研究所・高木淳也氏らの研究チームは、空手の初心者が「型」の演武を行った際の酸素化ヘモグロビンレベルに着目、空手の練習時における前頭葉領域の活性化について、調査・比較を行った。

この研究に関する論文はデジタル領域を中心に学術論文を広く掲載する電子ジャーナル「Journal of Digital Life」(ジャーナル・オブ・デジタル・ライフ)で公開されている。

本研究には、武道経験のない空手の初心者11名が参加(平均年齢21歳)。参加者はウェアラブルな測定装置を装着、空手の「型」である「正拳中段突き」(A)「前拳上段・中段・下段突き」(B)「上段上げ受け、中段外受け、中段内受け、下段払い、逆突き」(C)の三種のほか、ラジオ体操の一部(両腕を横に広げ、その勢いで元の位置に戻し、次に腕を体の前で下方向に振り下ろし、前方へ回転させる)を行い、その際の脳血流の変化を測定した。

なお、空手の型とラジオ体操の練習中、空手の師範が参加者の前に立ち、模範動作を見せた。参加者は師範を前にして空手の型とラジオ体操を師範のお手本を見ながら実施した。

その結果、運動中に感じる「きつさ」を数値化したRPE(主観的運動強度)については、ラジオ体操が最も低く、以降、型A~Cの順となっている(下図)。

初心者における空手型およびラジオ体操の実施時のRPE(主観的運動強度)

また、酸素化ヘモグロビン濃度変化および脱酸素化ヘモグロビン濃度変化については、下図の通りとなった。

初心者による空手型およびラジオ体操実施中の酸素化ヘモグロビン変化量
脱酸素化ヘモグロビン変化量

空手初心者は空手型A、Bを実行した際、脳前頭葉領域の酸素化ヘモグロビンレベルが、型Cおよびラジオ体操を実行した時よりも高くなるとともに、ラジオ体操実施時のレベル上昇は型Cと同程度であることが分かった。また、型A、B実行中の脱酸素ヘモグロビンレベルは有意に減少したが、型Cおよびラジオ体操中は変化しなかった。

先行研究により、脳前頭葉領域の酸素化ヘモグロビンレベルは、RPEに応じて増加することが明らかになっているが、本研究ではRPEの高い型Cを実行中の酸素化ヘモグロビンレベル上昇が、型A、Bの実行中よりも小さかった。研究チームは、やや複雑な動きが求められる型Cの実行には、身体的努力に加え、精神的努力と注意力の要求が必要とされ、 師範の動きを再現する不安を誘発した可能性があり、結果として初心者は師範の模倣が困難となり、前頭領域の酸素化ヘモグロビンレベルが型A、B時より低下した可能性があるとしている。

また、ラジオ体操中の前頭部における酸素化ヘモグロビンレベルの上昇は、型A、Bの実行時よりも有意に小さかった。さらに、脱酸素化ヘモグロビンレベルは ラジオ体操実行中に変化しなかった。ラジオ体操は参加者にとって慣れ親しんだものである一方、空手型の実行は新規の行為であった。先行研究では、運動適応が進むにつれて酸素化ヘモグロビンレベルが低下することが報告されており、空手初心者がラジオ体操を行う際の酸素化ヘモグロビンレベルの上昇が、型A、Bを行う際よりも低いのは、動作への慣れによるものと考えられる。

以上の結果から研究チームは、空手の型が前頭葉の酸素化ヘモグロビンレベルを上昇させ得ることを示しているとし、実施者の「認知的努力」および「運動制御能力」に適合した空手型は、酸素化ヘモグロビンレベルの上昇幅をさらに大きくする可能性があるとした。一方、「認知的努力」と「運動制御負荷」が高い空手型では、その増加幅は小さくなる可能性があるといい、空手初心者の脳における前頭葉の酸素化ヘモグロビン変化量は、「認知的努力」と「運動制御負荷」、動作習熟度や身体的努力に影響される可能性があるとしている。研究チームは、空手の型が脳前頭葉の酸素化ヘモグロビン変化量に及ぼす影響について、さらなる研究によって明らかにされるべきであるとし、今後の研究の発展に期待を込めた。

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