納豆や鮒ずしなど“臭い”とされているにもかかわらず、古くから愛されている食品は数多くある。一般的には不快な匂いにもかかわらず、なぜそのような食べ物が長期間維持されてきたのだろうか―。BIPROGY株式会社 総合技術研究所の宮村佳典氏らの研究チームは、伝統的な臭い食品が生産・消費されている地域の子供は、成人後にそのような食品についての想起にポジティブな影響を与える(思い出しやすくなる)という仮説のもと、臭い食べ物の代表格とも言える「くさや」を例に、その要因を明らかにすることで、“臭い”食品が受け継がれてきた理由の一端について検証を行った。
この研究に関する論文はデジタル領域を中心に学術論文を広く掲載する電子ジャーナル「Journal of Digital Life」(ジャーナル・オブ・デジタル・ライフ)で公開されている。
本来、腐敗臭は、有毒物質の存在など、人に対して「これを食べるべきではない」という情報を提供する。しかし、臭い食品はそれぞれの地域で維持され、食べられ続けている。例えば、スウェーデンの「シュールストレミング」というニシンの発酵食品は、塩の入手手段が限られていたために考案された保存食だという。日本のくさやも同様だ。しかしながら現在、スウェーデンでも日本でも塩不足はもはや問題ではないが、両者は今でも消費されている。
なぜこのような悪臭を放つ食品が維持、保存されているのだろうか―。
研究チームは、先行研究を参考にしつつ、以下の二つの仮説を立てたうえで、インターネットリサーチサービスを通じて募集した5,485人の参加者に対してアンケート調査を行った。
仮説1:伝統的な臭い食べ物を生産・消費する地域で20歳まで生活すると、大人になってから臭い食べ物について質問されたときに、その食べ物の想起が強まる。
仮説2:20歳まで伝統的な臭い食品が生産・消費されていた地域に住んでいた人は、結婚後、これらの食品を思い出す能力が向上する。
参加者は「臭い食べ物」を1つ挙げるともに、20歳までに最も長く住んでいた都道府県、子供の頃に朝食や夕食を大人と一緒に食べたかどうか等などを尋ねられた。そこで挙げられた「臭い食べ物」上位10食品について、2016年から2020年までの日本のX(旧Twitter)におけるデータを掛け合わせ「臭い食品指数」を算出したところ、「臭い食品指数」1位は「くさや」となった。
「くさや」の主な消費地は関東地方であり、関東地方に含まれる新島や大島などの離島が主な生産地となっている。さらに、2011年の調査では、関東地方を中心に酒の肴として重宝されていることが報告されている。今回のアンケートでも、20歳まで関東に主たる居住地があった参加者で「くさや」の回答率が最も高いという結果となっている。
続いて研究チームは仮説2について検証すべく、婚姻状況と「くさや」を臭い食べ物として想起することとの関連に対する分析を行った。その結果、20歳まで主に関東に住んでいた既婚者は、独身者に比べて「くさや」を思い出す可能性が高いことが示され、逆に、20歳まで主に関東以外に住んでいた既婚者は、独身者に比べて「くさや」を思い出す可能性が低くなったという。この結果について研究チームは、
①20歳まで関東に住んでいた人と、関東以外に住んでいた人では、地域から受けた影響によって、結婚後に「くさや」を食べる機会の頻度に差が生じたため
②20歳まで関東に住んでいた既婚者は、その地域から受けた影響により、結婚後に「くさや」の記憶を想起する機会が増え、関東以外に住んでいた既婚者は、他の臭い食べ物の記憶を想起する機会が増えたため
③両グループとも結婚後に「くさや」を想起する機会が同じであったとしても、それ以前の「くさや」の記憶の有無が、その強化に影響を与えたため
上記のいずれかが要因ではないかとしつつ、子供時代に住んでいた地域が、臭い食べ物に関連する記憶の形成に影響を及ぼし、そのような記憶が結婚によって強化された可能性を示唆しているとする。
今回の分析について研究チームは、先に挙げた二つの仮説の立証については推測の域を出ないとし、検証に限界があると認めつつも、臭い食品の存在理由についての研究や、臭い食品の維持・保存をしていきたいと考える生産者にとって、示唆に富むものではないかとしている。



