インターネット上に氾濫する様々な言説は玉石混交であり、「健康」にまつわる情報についても、科学的な根拠のないものや真偽不明な情報が散見されるのが現状だ。「eヘルスリテラシー」とは、インターネット上の健康情報を検索し、理解、評価し、活用する能力のことを指し、すべてのネット利用者にとって育成すべきスキルであると言える。福山大学経済学部・戸村貴史氏らの研究チームによる本研究は、若い世代、特に大学生におけるeヘルスリテラシーについて、ワークショップを通じた変容的学習経験について調査したものである。この研究に関する論文はデジタル領域を中心に学術論文を広く掲載する電子ジャーナル「Journal of Digital Life」(ジャーナル・オブ・デジタル・ライフ)で公開されている。
大学生は、初めての一人暮らしや学業上のプレッシャー、将来のキャリアへの不安などから、栄養面の偏りや、危険な性行動、ストレスや不安、抑うつといったメンタルヘルスの問題などにさらされやすいという。現在、学生の健康行動において中心的な役割を果たしているのは主にインターネット上の情報であり、特にX、Instagram、YouTube、TikTok、Facebookなどのソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の影響が強いとされる。その結果、エビデンスに基づく情報よりも、SNSでの投稿やインフルエンサーの発言、著名人のブログ等を信用してしまう傾向にあり、それが学生の意思決定や健康状態に悪影響を及ぼすリスクも指摘されている。こういった課題に対処するためには、学生が自らの思い込みを問い直し、情報の信頼性を批判的に評価し、科学的な根拠に基づいて健康に関する判断を行えるようにする「変容的学習の経験」が必要であるとする。
本研究において研究チームは、日本の大学生に特化した eヘルスリテラシーワークショップを開発、実施。ワークショップでは、理論的な学習である講義と実践的な学習活動を組み合わせ、学生がインターネット上の健康情報を検索・評価・活用するスキルを身につけるとともに、自らの思い込みを批判的に見直せるための学習内容が設計されたという。その中心的な学習方法であるグループディスカッションにおいては、学生が自分自身の認識を振り返り、情報の正確性や信頼性について対話することで、批判的な思考を育むとされている。
ワークショップに参加した学生たちは「検索結果の一番目だけに依存すること」「有名企業のウェブサイトを十分な検討なしに信用すること」「SNS上の情報を個人的な関連性を考慮せずに受け入れること」などの慣習的な行動の不十分さに気づき、「信頼できる健康情報を見極めるために複数の情報源を参照し比較すること」「エビデンスに基づくデータに注目する」といった新たな視点を得たという。
今回はワークショップに参加した学生がすべて同じ学部の学生だったこと、またその人数(6名)が限られていたことから、研究チームは今後の課題として、質的データと量的データを組み合わせ、研究成果の一般化の可能性を高めることにより、eヘルスリテラシー教育について、より効果的な知見を提供したいとしている。
