電力危機の真実【6】核燃料サイクル|日本のために今~エネルギーを考える~:イザ!

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電力危機の真実【6】核燃料サイクル

 日本の原子力政策の中核をなす「核燃料サイクル」が岐路に立たされている。原子力発電所で発生する使用済み核燃料からプルトニウムとウランを取り出して再利用するもので、このサイクルを確立することで原子力を「準国産エネルギー」として活用できる。だが、その中核施設である「再処理工場」はトラブル続きで何度も完成が延期され、高速増殖炉原型炉「もんじゅ」(福井県)も実用化のめどが立たない。核燃サイクルの歯車が回り始めるかどうか正念場を迎えている。

六ケ所再処理工場 操業へなお課題


核燃料サイクルの中核施設となる日本原燃の六ケ所再処理工場(青森県、同社提供)

 三沢空港から車で約1時間。下北半島の付け根に位置する青森県六ケ所村に、電力各社が出資する日本原燃の施設が集積している。今年10月、ここに新たな施設が加わる。使用済み核燃料から燃え残りのウランと新たにできたプルトニウムを取り出す再処理工場が完成するのだ。
 使用済み核燃料から取り出したウランとプルトニウムを原発の燃料として再利用する-。核燃料サイクルと名付けられた、この循環は国産資源に乏しい日本のエネルギー政策の根幹に据えられてきた。六ケ所再処理工場は、サイクルの完成に欠かせない重要施設だ。
 着工は平成5年。当初は9年の操業開始を予定していたが、再処理後の廃液を専用の炉でガラスと混ぜて固める「ガラス固化体」の製造試験でトラブルが続き、操業時期は20回にわたり延期された。昨年5月にガラス固化体の製造に成功し、ようやく完成時期が見通せるようになった。
 政府のエネルギー白書によると、日本のエネルギー自給率(22年)は原子力を除いてわずか4%。中国の91%、米国の68%、インドの74%、英国の65%、ドイツの29%などと比べ、極めて低い水準にある。核燃料サイクルの推進で原子力を「準国産エネルギー」として活用することは、エネルギー安全保障上も大きな意味を持つ。
 再処理工場の完成は、原発の再稼働にも欠かせない。日本原燃や全国の原発の貯蔵プールで保管できる使用済み核燃料の量は限られ、再処理工場が稼働しないままでは原発が再稼働しても数年後には再び運転停止に追い込まれる恐れがあるからだ。再処理工場が稼働すれば、年間800トンの使用済み核燃料を再処理し、約8トンのプルトニウムを抽出できるようになる。
 使用済み核燃料については、国の原子力委員会で、再処理よりもすべてを地中に埋めて捨てる「全量直接処分」の方がコストが安く済むとの試算が示されている。だが、新興国を中心に原発の新設計画が進むなかで、ウラン資源を有効に活用できる再処理は必要な技術だ。
 再処理には直接処分に比べて廃棄物の量を減らす減容化や有害度低減などのメリットもある。例えば、直接処分に比べて高レベル放射性廃棄物を数分の1に減容できる。再処理を推進する意義は小さくない。
 ただ、操業開始にはなお課題がある。昨年12月に核燃料関連施設の新規制基準が施行され、爆発や火災など過酷事故への備えが原発と同様に義務づけられた。日本原燃は今年1月、再処理工場など4施設の安全審査を原子力規制委員会に申請。約300億円を投じ、移動式の消防ポンプなどの配備を進めている。
 一方、下北半島の太平洋沖に延びる「大陸棚外縁断層」も操業開始に影響を与える可能性がある。日本原燃は独自調査を基に「活断層ではない」としているが、規制委は付近の地下構造の調査を進める。活断層と判断されれば追加補強工事などを迫られ、審査が長期化する恐れもある。
 政府は先に閣議決定したエネルギー基本計画で、原発を「重要なベースロード電源」と位置づけた。電力業界は「原発を動かす上で、核燃料サイクルの実現は一体。再処理工場の早期操業も含め、国策として取り組んでほしい」(大手電力幹部)と期待している。

岐路に立つ「夢の原子炉」


トラブルが続き、運転を停止している
高速増殖炉原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)

 核燃料サイクルにとって、再処理工場と並ぶ中核施設が高速増殖炉だ。だが、研究段階の高速増殖炉原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)はトラブル続きで稼働できずにいる。エネルギー基本計画では位置づけを見直す方針が盛り込まれるなど、消費した以上の核燃料を生み出す「夢の原子炉」は岐路を迎えている。
 国産エネルギー資源に乏しい日本は、高速増殖炉の開発を国策として進めてきた。だが、もんじゅは平成6年に初臨界したものの、7年にナトリウム漏洩事故を起こして長期の運転停止を余儀なくされた。22年5月に運転を再開したが、同年8月には燃料交換装置の落下事故で運転を停止。現在も大量の機器の点検漏れで原子力規制委員会から無期限の運転停止を命じられている。
 トラブル続きのもんじゅに対し、与党内にも批判は根強く、公明党は「廃止」が公約。このため、エネルギー基本計画の策定をめぐる議論では「完全撤退」との意見も出た。これに対し、下村博文文部科学相は2月の会見で「もんじゅは夢の原子炉でスタートした。本来掲げた夢はここで頓挫させるようなことがあってはならない」と研究を続ける意義を強調。最終的に高レベル放射性廃棄物の減容化などの国際的な研究拠点と位置づけ、存続が容認された。
 ただ、核兵器に転用可能なプルトニウムを無用に保有していることは、国際社会から批判されかねない。高速増殖炉に代わり、電力各社は使用済み核燃料から再処理で取り出したプルトニウムとウランを既存の原発で燃やす「プルサーマル」を推進してきたが、消費しきれていない。再処理で取り出したプルトニウムをどう消費するのかという課題に取り組む必要がある。

原子力協定の改定にも影響

 プルトニウムの利用が進まず、核燃料サイクルが順調に進んでいないことは、2018(平成30)年に満期を迎える日米原子力協定の改定にも影響を与えることが懸念されている。日本は非核保有国の中で唯一、使用済み核燃料の再処理が認められている。だが、その〝権利〟を保証した協定が見直されるような事態になれば、原子力技術における日本の優位性が揺らぎかねない。
 「今のままで、米国が簡単にOKと言うかは分からない」。国際エネルギー機関(IEA)前事務局長の田中伸男氏は、停滞する核燃料サイクルが日米原子力協定の改定に与える影響を心配する。
 日本は1988(昭和63)年に発効した日米原子力協定で、再処理を包括的に認められた。核不拡散の強化を打ち出していた米国との厳しい交渉の末に得た権利だ。再処理は、韓国も〝悲願〟としてきたが、朝鮮半島で核開発競争が生じかねないと米国側が難色を示してきた歴史がある。今年3月に2年間延長された米韓原子力協定でも、再処理やウラン濃縮は認められなかった。
 ただ、日本は約44トンのプルトニウムを保有しており、これが協定改定の障害になるとの指摘は根強い。今年3月にオランダ・ハーグで開かれた「第3回核安全保障サミット」では、核テロ阻止に向けてプルトニウムなど核物質の保有量を最少化することなどを盛り込んだ「ハーグ・コミュニケ」が採択されており、日本に対する懸念が高まるとの見方もある。
 田中氏は「エネルギー政策においては、将来に向けて多くの選択肢を持つことが重要だ。日本は再処理技術を持ち続けるためにも、米国を納得させられるような体制を整える必要がある」と指摘している。

核燃料サイクル

資源の有効利用を狙いに、原発で発生する使用済み核燃料を再処理してプルトニウムやウランを取り出し、原発の燃料として再び利用するエネルギー政策。当初は高速増殖炉を中核とする計画だったが、相次ぐ事故やトラブルで開発が難航。代わって、取り出したプルトニウムとウランを混合酸化物(MOX)燃料に加工して既存の原発で燃やす「プルサーマル」を進めてきたが、福島第1原発事故の影響で停滞している。