電力危機の真実【5】最終処分場|日本のために今~エネルギーを考える~:イザ!

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電力危機の真実【5】最終処分場

 原子力発電所から出る使用済み核燃料を最終的にどうするのか。これは原発を利用する各国共通の大きな悩みだ。日本では最終処分場の候補地をめぐり、自治体からの公募を前提としてきたが、調査さえ実施できない状況が続く。だが、日本原燃の再処理工場や全国の原発の貯蔵プールで保管できる使用済み核燃料の量は限られ、このままでは原発が再稼働しても数年後には運転停止に追い込まれる恐れもある。政府は国が主導する形で候補地を選ぶ方式に切り替えたが、地元の理解を得ることも政府の重い役割だ。

国主導で候補地選定 具体的な提示は不透明


燃料プールで保管される使用済み核燃料(関西電力大飯原発3号機)

 「トイレのないマンション」。日本の原発は長い間、こう揶揄(やゆ)されてきた。見た目はきれいでも、発電後に生じた使用済み核燃料から出る放射性廃棄物の最終処分場が決まっていないからだ。
 政府は平成12年に特定放射性廃棄物最終処分法を制定。同法に基づき、政府と電力業界は最終処分場の立地選定と建設、運営を担う原子力発電環境整備機構(NUMO)を設立、14年から全国の市町村を対象に最終処分場の公募を進めてきた。だが、高知県東洋町が19年に初めて文献調査に応募したものの、住民の強い反対で撤回に追い込まれて頓挫。その後は正式に手を挙げた自治体はない。
 そうした状況が続いていた中で、突如として昨秋、最終処分場についての議論が動き出した。
 「原発を再稼働すれば核のゴミが増える。最終処分場がみつからないのなら、すぐゼロにした方がよい」
 小泉純一郎元首相が、最終処分場が決まらないことを論拠に「原発即ゼロ」を声高に主張したことがきっかけだった。
 政府は昨年12月17日、首相官邸で「最終処分関係閣僚会議」の初会合を開き、最終処分場の選定方法を自治体が応募する従来方式から国が候補地を示す方式へ切り替えるとの方針を正式に決定。菅義偉(すが・よしひで)官房長官は「問題を将来世代に先送りせず、関係行政機関が連携して積極的に推進する」と国主導で候補地選定に取り組む方針を示した。
 今年3月14日には、経済産業省の有識者による作業部会「放射性廃棄物ワーキンググループ」が最終処分場の候補地選定方法の見直しに関する中間報告を了承した。中間報告では、処分場選定について「これ以上先送りすることなく、解決に向けあらゆる手立てを講じていくことが不可欠だ」と提言。国が科学的な見地から適地を提示し、自治体に理解を求める方式に改めるよう促した。
 一方、処分方法としては地中に埋設する「地層処分」が現時点で最も有望であるとしたうえで、廃棄物を回収可能な形で封じ込めることを制度として明確化するよう求めた。将来、新たな処理技術が確立されたり、処分地の地元の意向が変わったりした場合に取り出しを可能にするためで、処分場受け入れに対する自治体の理解を得やすくすることを狙っている。
 しかし、実際の候補地選定は、まだスタートラインにも立っていない。地層処分の研究開発の課題について議論する経産省の有識者作業部会「地層処分技術ワーキンググループ」が3月20日に了承した報告書では、地層処分について「可能な地域は国内にも広く存在する」と指摘したが、具体的な候補地の提示までは踏み込まなかった。今後、政府は科学的なデータを集めて候補地を絞り込んでいきたい考えだが、作業をどのように進めていくかは現時点ではっきりとしていない。候補地を示しても、実際の選定では地元住民の反発など困難も予想され、政府の強い覚悟が問われている。

短いもので数年 貯蔵容量が限界

 使用済み核燃料は現在、全国各地の原発や日本原燃の使用済み核燃料再処理工場(青森県六ケ所村)に貯蔵されている。その量は合計1万7千トンを超え、貯蔵能力は限界に近づきつつある。今後、原発再稼働が進めば、使用済み核燃料はさらに増えることになる。貯蔵量が満杯になれば、原発の稼働を止めるほかない。最終処分場の選定に道筋を付けることは原発活用の方針を掲げる政府にとって避けて通れない課題だ。
 「短いもので数年程度で使用済み燃料の置き場がなくなる」
 今年2月に資源エネルギー庁がまとめた資料は、全国各地の原発における使用済み核燃料の貯蔵容量が限界に近づきつつある状況を指摘した。
 資料によると、平成25年12月末時点で国内の全原発が持つ使用済み燃料の貯蔵容量は2万810トン。これに対して実際の貯蔵量は1万4340トンと約7割に達している。
 原発が再稼働した場合、貯蔵容量が満杯になるまでの期間は、最も短い九州電力玄海原発(佐賀県)で3年、東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)と日本原子力発電東海第2原発(茨城県)が3年1カ月。10年以上の貯蔵容量があるのは北海道電力泊原発(北海道)など4原発だけだ。
 日本原燃の再処理工場でも使用済み核燃料を保管しているが、貯蔵量は2945トンと3千トンの貯蔵容量に迫り、ほぼ満杯の状況にある。使用済み核燃料をプルトニウムやウランを資源として取り出す再処理が進まない限り、再処理工場でこれ以上受け入れることは難しい。

「原発安定稼動」へ急務

 こうした状況を乗り切るため、東京電力と日本原子力発電が出資する「リサイクル燃料貯蔵」は青森県むつ市に使用済み核燃料の中間貯蔵施設を完成している。東電と日本原電の原発で使われた使用済み核燃料を最長50年間保管することができる。
 ただ、中間貯蔵施設の名前が示すように、この施設はあくまで一時的に使用済み核燃料を保管しておくだけのものだ。最終処分場の建設には長い時間がかかることも想定され、原発を安定的に稼働するには選定作業を早期に進めることが不可欠だ。

世界初の最終処分場 フィンランド「オンカロ」

 最終処分場の選定が原発利用国で難航する中で、世界初の最終処分場として選定されたのがフィンランドの「オンカロ」だ。住民の反発もなく、2020年の操業を目指し、現地の電力会社2社が出資したポシバ社が建設を進めている。
 オンカロは、首都ヘルシンキから約250キロ。バルト海に面したオルキルオト島にあり、オルキルオト原発が隣接している。オンカロはフィンランド語で「洞窟」という意味だ。
 地下約500メートル地点まで掘り進め、最深部には直径1.75メートル、深さ8メートルの穴を約4500個くり抜き、使用済み核燃料を金属製容器に入れて直接処分する。ポシバ社の担当者が「人々の記憶から完全に忘れさられるための施設」と話すように、放射線量が自然界と同じになる10万年後まで地層に置いておく施設だ。
 地上からは緩やかなスロープとなっており、10メートル進むと1メートル下がる洞窟のような坂道の坑道が続く。最終的には総延長40キロもの長さになる。完成すればまさに「アリの巣」そのものだ。
 オンカロについては、地元エウラヨキ市も歓迎している。過疎化が進む同市は原発による収入が多く、「最終処分場の受け入れは原発増設の見返り」と受け止めている。
 オンカロの坑道は岩盤の洞窟で、花崗(かこう)岩などの固い結晶質の岩でできていることも最終処分場に選定されたポイントだった。ポシバ社の担当者は、世界に先駆け、フィンランドが最終処分場を選定できたことについて「地質学上のアドバンテージがあるからできる」と話した。

最終処分場

 原発から出た使用済み核燃料を最終的に埋設する施設。使用済み核燃料からウランとプルトニウムを取り出す再処理を前提とする日本では、再処理後に残る放射能レベルの高い廃液をガラスに混ぜて固めたガラス固化体にし、地下300メートル以上の深い岩盤に半永久的に隔離する方法が検討されている。一方、フィンランドの「オンカロ」では使用済み核燃料を再処理せずに直接処分する。