電力危機の真実【4】再生エネの実力|日本のために今~エネルギーを考える~:イザ!

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電力危機の真実【4】再生エネの実力

 原発の稼働停止が続く中、環境負荷の低い代替エネルギーとして、太陽光、風力などの再生可能エネルギーへの期待が高まっている。発電した電気の買い取りを電力会社に義務付ける固定価格買い取り制度を追い風に、再生エネの設備容量は平成24年7月の制度開始から1年半で3割増えた。ただ、発電効率やコストに課題を抱えており、過大な期待は禁物だ。

太陽光に偏重・・・本格活用には課題


山の斜面に並ぶ風力電力の風車(兵庫県あわじ市)

 再生可能エネルギーは、発電時に地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を排出しない。枯渇することもなく、輸入に頼る必要もない。資源に乏しい日本にとって期待の大きなエネルギーだ。
 政府は2月にまとめたエネルギー基本計画の政府案で、再生エネについて「平成25年から3年程度、導入を最大限加速し、その後も積極的に推進していく」と明記した。導入を拡大しようと政策支援を続けており、なかでも再生エネで発電した電力の買い取りを大手電力会社に義務づけた「固定価格買い取り制度」は大きな役割を果たしている。運用が始まった24年7月以降、国の認定を受けて発電を始めた再生エネの設備は昨年末時点で約704万㌔㍗と原発7基分に達している。
 制度開始前からの累計では、2764万㌔㍗まで増加した。水力を除く再生エネが国内の総発電量に占める割合は1・6%(24年度)と、欧米に比べると低いものの、資源エネルギー庁は「順調に導入が進んでいる」と評価する。
 増加分の97%は発電量684万5千㌔㍗を占める太陽光だ。パネルなど発電設備の設置が容易なうえ、電力会社による買い取り価格が高めに設定されたことで、さまざまな業種から事業参入が相次いだ。
 ただ、あまりに太陽光に偏重しているため、政府は是正に着手。4月からは、太陽光の買い取り価格を2年連続で引き下げる一方、洋上風力に新たな価格枠を設け、再生エネの柱に育てようとしている。政府は海に浮かぶ「浮体式」に期待しており、福島県楢葉町の沖合など全国4カ所で実証実験を始めている。
 再生エネは経済活性化策としても期待が大きい。例えば、洋上風力は風車だけでも部品が2万点あり、産業の裾野が広い。福島県の佐藤雄平知事は「(福島の中小企業が)さまざまな部品でお手伝いできる」と話すなど地域の視線は熱い。
 ただ、再生エネを本格的に活用していくには課題があるのも事実だ。
 太陽光は原発1基分の発電量を確保するには、山手線の内側と同程度の67平方㌔㍍にパネルを敷き詰める必要があるとされる。東京都すべての戸建て住宅(175万戸)にソーラー設備を取り付けるのにも等しく、「国土の狭い日本には不向き」ともいわれる。
 建設費用もかさむ。経産省によると、175万戸の住宅への発電設備の取り付けには最大3兆3千億円が必要で、原発1基の建設費4千億円を大きく上回る。
 陸上風力でも原発1基分の発電量を確保するには2100基の風力施設が必要で、建設費用は最大1兆2千億円かかる。
 1㌔㍗時当たりの発電コストも原発を上回る。モデルプラントに基づく23年の試算では原発が8・9円とされるのに対し、陸上風力が9・9~17・3円、大規模太陽光は30・1~45・8円だ。再生エネの導入量を増やすには、電力会社からの電気の買い取り価格を高くせざるを得ず、最終的には賦課金として電気料金に上乗せされ、国民負担も膨らむことになる。
 経産省は今月25日、一般的な家庭に対する26年度の賦課金を1カ月あたり225円にすると決定。25年度の120円に比べて、負担が8割以上増える。負担増は2年連続だ。
 太陽光は雨や夜間では発電できず、風力は風の強弱に左右される。こうした発電の不安定さも弱点で、日本総研の藤波匠主任研究員は「原発や火力に代わり、国内の2割程度の発電を担う主要電源に育つのは難しい」と指摘している。

悪質業者の認定を取り消し 制度を厳格化

 固定価格買い取り制度をめぐっては、太陽光発電の認定を受けても土地や設備を確保せず、不当な利益を得ようとする事業者の存在が浮き彫りになった。買い取り費用は電気料金に上乗せされるため、放置すれば国民負担でこうした業者を利することになる。経済産業省は悪質な672件の認定を取り消すとともに制度を厳格化し、一定期間内に土地や設備を確保しなければ認定が自動失効するようにする。
 「認定を受けた業者はすみやかに稼働してもらわなければならない。この趣旨に反する場合は、適切な対応が必要だ」。茂木敏充経産相は2月14日の会見でこう述べ、悪質業者の認定取り消しに乗り出す考えを示した。
 経産省は、平成24年度に認定を受けながら発電を始めていない4699件を調査。このうち、発電用の土地も建物も確保していない571件と、回答しなかった101件の計672件について取り消しに向けた手続きに着手した。
 こうした業者が出てきたのは、参入を促すため、土地や設備を確保していなくても認定される仕組みになっていることが一因だ。
 ある太陽光発電事業のコンサルティング業者は、「『工事は後で考えればいい。買い取り価格が下がる前に、認定を受けてしまった方がいい』というのが、われわれの営業活動のキラートーク(殺し文句)だった」と話す。
 発電は認定さえ受ければいつ始めてもよく、24年度の場合、事業者は発電開始から20年間、1㌔㍗時当たり40円(税抜き)で買い取ってもらえた。太陽光パネルの価格は急落しており、パネル購入を遅らせるほど利益として膨らむ。事業者が建設や稼働を急ぐ動機は生まれなかった。
 こうした事態を改善しようと、経産省は制度を見直し、認定後に土地や設備を6カ月以内に確保しなければ認定が自動的に失効するようにした。4月以降、出力50㌔㍗以上の太陽光を対象に導入する。同じ土地で同時期に開発されるケースは一つの大規模案件として扱うなど「厳格な運用を図る」(資源エネルギー庁)としており、例えば270㌔㍗の設備を45㌔㍗の設備に6分割して申請するような抜け道を防ぐ考えだ。

「先進国」ドイツ 電気料金高騰・・・国民に不満

 2022年末までに「脱原発」を目指すドイツは、再生エネの発電割合が水力を含め2割超に達する再生エネの「先進国」だ。ただ、固定価格買い取り制度による電力会社の買い取り費用の膨張で電気料金が高騰し国民の不満が高まっている。
 ドイツの電気料金を1ユーロ=140円で計算すると、13年では標準家庭で1カ月1万1600円。このうち再生エネ買い取りのために電気料金に上乗せされる賦課金は2200円だった。一方、買い取り制度が始まった00年の電気料金は5700円で賦課金は80円。電気料金は2倍に高騰している。国民の不満が強いのは、輸出競争力を保つため輸出企業などへの賦課金が1㌔㍗時当たり0・07円と優遇されていることだ。家庭向けは8・74円と100倍以上。企業優遇については欧州連合(EU)も「域内の公正な市場競争を阻害している」と批判している。
 こうした声に、メルケル政権は、今年8月にも法改正などを通じて買い取り制度を修正する。すでに太陽光については13年末時点で3570万㌔㍗ある発電容量が5200万㌔㍗に達した時点で買い取り対象から外すことを決めているが、さらに企業向けの賦課金を増額し、家庭向けの減額を検討する見通し。ただ、企業向けの増額は「雇用削減などにつながり経済に悪影響」などの声もあり、決着までには曲折が予想される。

固定価格買い取り制度

 再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス)で発電された電力を、電力会社が決まった価格(固定価格)で一定期間買い取ることを国が義務付けた制度。再生エネの普及のため、平成24年7月に運用が始まった。先行するドイツなどを参考に制度設計された。電力会社の買い取り費用は、電気料金に「賦課金」の形で上乗せされ、すべての電気利用者から徴収される。買い取りの価格や期間は、第三者委員会の意見をもとに、再生エネごとの利潤やコストを踏まえて、経済産業省が毎年度、見直す。