電力危機の真実【2】日本経済の打撃|日本のために今~エネルギーを考える~:イザ!

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電力危機の真実【2】日本経済の打撃

 原発の稼働停止が長期化することによる日本経済への打撃が心配されている。液化天然ガス(LNG)など火力用燃料の輸入コストがかさんで電気料金が値上がりし、個人消費や企業の設備投資が冷え込む恐れがあるためだ。政府は先月25日、原発を「重要なベースロード電源」と位置づけるエネルギー基本計画の政府案を決め、原発再稼働を推進する姿勢を示したが、再稼働の時期は見えていない。経済成長率の下ぶれや、経常収支の赤字転落が現実味を帯びてきた。

北海道電「再値上げ」・・・コスト増で消費萎縮


東京電力富津火力発電所の富津LNG基地。LNGの輸入増が貿易収支の赤字を拡げている

 電力会社が電気料金の再値上げに向けて動き始めた。すでに東京電力など6電力が値上げを実施、中部電力も値上げを申請している。電気料金が再値上げされることになれば、再生しつつある日本経済に多大な打撃を与えることになる。
 「電気料金の再値上げの具体的検討に入るよう指示した」。北海道電力の川合克彦社長は2月17日の会見でこう述べた。原子力規制委員会に安全審査を申請している泊原発1~3号機(北海道泊村)の再稼働が見通せない中、火力発電用の燃料コストが膨らみ、「このままでは債務超過になる可能性も否定できない」(川合社長)からだ。
 北海道電は昨年9月に家庭向け料金を平均7・73%、企業向けも平均11・0%引き上げた。再値上げを表明した電力会社は同社が初めてだが、すでに値上げを実施した他電力にも影響する可能性がある。
 国内では、平成23年3月の東京電力福島第1原発事故以降、安全面の不安などから原発は順次停止。24年5月には泊原発3号機が停止し、いったんは稼働原発がなくなった。その後、関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)が再稼働したものの、昨年9月15日に定期検査で4号機が発電を停止して以来、再び原発ゼロが続く。
 原子力規制委員会は再稼働に向け安全審査を実施しているが、実際の稼働時期は見通せておらず、経済同友会の長谷川閑史代表幹事は1月の会見で、「電気料金の再値上げは、勢いがつきつつある日本経済に好ましくない」と原発の早期稼働を訴えた。新日鉄住金グループの電炉メーカー、新北海鋼業(北海道小樽市)のように、電気料金値上げによるコスト増を理由に自主廃業する企業も出ている。
 原発ゼロが続くと、日本経済には、どのような影響が及ぶのか。
 電力事業の研究を手がける電力中央研究所(東京都千代田区)は、原発ゼロが続いた場合の国内総生産(GDP)を試算している。原発が再稼働し、東日本大震災前の平成22年の半分まで原子力発電量が戻ったとする「標準ケース」と比べると、実質GDPの成長率は42年まで年平均で0・06%下ぶれするという。

 成長率の落ち込みはわずかとも思えるが、累積では多大な影響が生じる。GDPの累計損失額は、42年には86兆円に達し、日本の一般会計予算(約95兆円)に迫るGDPが吹き飛ぶ計算だ。
 電中研の浜潟純大(すみお)主任研究員は「GDPは国力をはかる指標。下ぶれは、国力が押し下げられていることを示す」と指摘する。
 累計損失額の内訳をみると、最も大きいのは「消費」の下ぶれによる影響で、42年時点で累計41兆円に及ぶ。電気料金の値上げで消費者が節約行動に走るほか、コスト増で企業が雇用や賃金を減らし、消費が萎縮する。
 企業の「投資」も累計で19兆7千億円下ぶれする。液化天然ガス(LNG)など火力発電用燃料を中心に、「輸入」が累計16兆8千億円まで膨らむこともGDPを下押しする。
 浜潟主任研究員は「試算に織り込んでいない原発廃炉の費用などが電気料金に上乗せされれば、GDPはさらに落ち込む」としている。
 一方、日本エネルギー経済研究所(東京都中央区)は、原発を再稼働した場合にどの程度GDPが押し上げられるかを試算した。26年度末の原発稼働数を①6基②16基③22基の3パターンで試算したところ、同年度のGDPは、②は①より0・13%、③は①より0・17%上ぶれする。原発の稼働数が多くなるほど、火力用燃料の輸入が減ることが大きい。
 同研究所の吉岡孝之研究員は、「原発の再稼働を円滑に進めるために、審査体制の拡充を急ぐ必要がある」と話している。

LNG輸入拡大 経常赤字も

 原発の稼働が止まっていることで火力発電の主力燃料である液化天然ガス(LNG)の輸入額が膨らみ、日本は年間での経常赤字転落が現実味を帯びている。ものづくりの技術を生かして輸出を増やす「貿易立国」モデルは揺らぎ、新たな成長の道筋をどう描くのか、課題を突きつけられている。
 経常収支は、輸出額から輸入額を引いた「貿易収支」、日本企業の海外子会社からの配当収益などを示す「所得収支」など、4つの収支項目を差し引きして算出する。日本が、どんな方法で稼いでいるかを表す指標ともいえる。
 財務省が発表した平成25年の経常収支の黒字額は、前年比31・5%減の3兆3061億円となり、2年連続して過去最少を更新した。
 経常黒字が縮小しているのは、貿易収支の赤字が10兆6千億円と過去最大を記録したことが主因だ。火力発電用のLNGや石油のほか、かつて日本が強かった半導体など電子部品の輸入も増えた。所得収支が過去最大の16兆5千億円の黒字になり、経常黒字は確保したものの、日本の「稼ぐ力」が落ちているのは明らかだ。月間の経常収支は、寒さで灯油の使用が増えていることもあり、昨年12月まで3カ月連続の赤字となっている。今年前半は月間の経常赤字が続くとの見方が多く、年間でも経常赤字に陥る可能性を指摘する声が出ている。

新たな成長戦略・・・揺らぐ貿易立国

 こうした状況について、甘利明経済財政担当相は「貿易立国の原点が揺らいでいる」と危機感を募らせる。原発再稼働が見通せずLNGの輸入量が高止まりする一方、メーカーの生産拠点の海外移転は進んでおり、輸出を増やすことは簡単ではなくなっている。経常赤字になれば、金利の上昇リスクが高まるとの見方も根強い。国債の購入資金が不足して海外投資家に頼らざるを得ず、国債が売られやすくなるからだ。経団連の米倉弘昌会長は「円の信認にも関係するので、(経常)黒字を死守する必要がある」と強調する。
 海外には、米国や英国のように経常赤字ながらも国内での消費や投資によって成長を続けている先進国がある。経常赤字を受け入れて内需を増やすのか、海外投資による配当などで稼ぐのか。長引く原発ゼロによって、貿易立国・日本は新たな成長シナリオを描く必要に迫られている。

「操業短縮やリストラ」雇用環境直撃

 「原発ゼロ」による電気料金の値上がりはコスト負担として企業経営にのしかかり、企業は操業時間の短縮や人員削減といった取り組みを始めている。このまま電気料金の高騰が続けば、企業の海外移転がさらに進み、雇用環境が悪化しかねない。  資源エネルギー庁は昨年11月、国内の企業約1500社を対象に、電気料金の上昇による経営への影響を調べた。「実際に影響があった」と回答したのは52・1%で、業種別でとくに多かったのは、食料品製造業や繊維工業など「軽工業」の70・4%だった。  具体的にどんな影響があったかについては、47・5%が「営業利益が減少した」、9・6%が「営業損失が発生した」を挙げた。電気料金値上げへの対応として最も多かったのは、「現在の企業活動を維持したまま、節電した」の71・1%。  操業短縮や人員削減は雇用の悪化につながり、個人消費も萎縮させる要因になる。電力中央研究所は、原発ゼロが続いた場合と、平成22年の原子力発電量の半分が回復する「標準ケース」について、42年時点の雇用環境を試算した。それによると、原発ゼロの場合、国内の就業者数は5931万人で、標準ケースを23万人下回る。このうちサービス業の減少が14万1千人と最も多い。一方、失業率は4・4%と、標準ケースの4・1%より0・3ポイント悪化する。

国内総生産(GDP)

 1年間に国内で新たに生み出されたモノやサービスの金額の総和を示し、国の経済力の目安となる。
 GDPが1年でどれくらい伸びたかを示すのが経済成長率で、生活実感に近い名目GDPと、物価変動の影響を除いた実質GDPがある。政府は、平成26年度の日本の名目GDPが500兆4千億円になると予想している。誰がいくら払ったかという支出面に着目すると、GDPは個人消費、企業による設備投資、公共事業を含む政府支出、輸出、輸入などに分解できる。個人や企業がお金をたくさん使うほど、GDPは拡大する。