石油危機の教訓【上】悲鳴あげる老朽火力|日本のために今~エネルギーを考える~:イザ!

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石油危機の教訓【上】悲鳴あげる老朽火力

 キンコン、キンコン…。暮れも押し詰まった昨年12月29日午前2時すぎ。関西電力の海南火力発電所(和歌山県、出力計210万㌔㍗)の中央制御室で鋭い警報音が鳴り響いた。
 3号機(60万㌔㍗)のボイラー配管の圧力調整弁の異常を知らせるサインだ。駆けつけた作業員が弁の蒸気漏れを発見し、運転を緊急停止した。
 幸い、管内の大半の工場は年末休業に入っており、電力が不足する事態は回避できた。突貫工事で修理にあたり、大みそかの午後6時すぎには発電ができるようになったが、海南発電所の釜谷文博・計画課長は「年が明けても発電できなければ、どうなっていたか」と厳しい表情を浮かべた。
 東京電力福島第1原発事故の後、国内の原発は相次いで運転を停止し、現在は稼働ゼロだ。これを補っているのが火力発電だ。ただ、全国に約300ある火力発電所のうち、運転開始から40年を超えた古い設備が全体の2割を占める。定期検査を特例的に先送りし、何とかつじつまを合わせているのが実態だ。
 海南発電所も、昭和40年代に稼働を始めた典型的な老朽火力だ。3号機に隣接する2号機は老朽化で平成13年に運転を止めたが、関電は原発の稼働停止で一昨年夏に運転を再開させざるを得なかった。

計画外停止2割増

 そうした取り組みも限界を迎えつつある。昨年7、8月に故障などで起きた計画外停止は、前年より2割も増えた。無理やり稼働を続けてきた老朽火力が悲鳴を上げているのだ。
 電力供給の危機は老朽火力だけではない。液化天然ガス(LNG)を燃料とする比較的新しい設備もトラブルとは無縁ではない。発電所で不測の事態が起きれば、予想外の大規模停電に発展する恐れがある。
 実際、そうした危機が2年前に九州で起きている。
 「新大分が止まるかもしれない。すぐに出社してください」
 24年2月3日未明。九州電力中央給電指令所の当直社員は声を震わせながら、自宅で眠る社員を次々に電話でたたき起こした。
 この日、大分市内の気温はマイナス4・3度。この寒さで新大分火力発電所(出力計229万5千㌔㍗)では配管にたまった水が凍結、ガスを送り込めなくなり、全13基が午前4時すぎに緊急停止した。
 工場や事務所の仕事が始まる午前9時までに動かなければ、電力は大幅に不足し、大規模停電に陥る危険があった。やむなく九電は他の電力各社に緊急融通を依頼、最悪の事態を回避した。

依存度9割に上昇

 昭和48年秋の第1次石油危機は、日本が戦後初めて経験したエネルギー危機だ。これを教訓に電力各社は、原発など電源の多様化を進め、石油火力の割合を7割から1割未満に引き下げた。
 だが、原発の稼働停止で、LNGを含めた火力発電への依存度は急激に高まり、今では石油危機時を上回る約9割に達している。40年をかけて見直しを進めてきた日本のエネルギー状況は、再び脆弱(ぜいじゃく)なものになった。
 安倍晋三首相は先月29日の参院代表質問で「電力は足りているとの指摘もあるが、発電所の定期検査繰り延べや老朽火力をフル稼働している結果。電力需給は予断を許さない」と答弁し、安全性を確認した原発の再稼働に意欲を示した。
 政府の危機感は強い。だが、原発への不安が根強い世論の前で、有効な手を打つことができていない。まずは、日本の電力供給をめぐる厳しい現実を国民に正しく伝えることから始めねばならない。