

2030(平成42)年時点で必要となる電力をどの電源で賄うのか。その比率を示す「電源構成」の検討が本格化している。電力は暮らしや産業を支える基盤であり、電源構成はエネルギーの将来像や安全保障も左右する重要な問題だ。とくに東日本大震災前まで電源の約3割を占めていた原発をどのように位置付けるのかが焦点だ。一方で温室効果ガスの排出削減に向け、再生可能エネルギーの導入拡大も欠かせない。現実的な議論を通じ、日本の未来にふさわしい電源の最適構成(ベストミックス)を導き出すことが問われている。
焦点の原発、現実的な議論必要に

「日本のエネルギー安全保障をめぐる環境は、依然として非常に厳しい」
電源構成を検討する経済産業省の有識者会議が今年1月末に開いた初会合。出席した委員からは日本を取り巻くエネルギーの現状に対し、強い危機感が相次いで示された。
東日本大震災に伴う福島第1原発事故を受けて全国の原発が相次いで停止し、日本では一昨年9月から稼働する原発がゼロの異常事態が続いている。原発の代替電源として火力がフル稼働しており、石油や天然ガスなどの化石燃料の輸入が急増している。
これら火力が電源全体に占める割合は、震災前の62%から震災後に88%と急上昇した。これは第1次石油危機時を上回る水準だ。
イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」の動きもあり、中東情勢の緊迫度は増している。そして日本の原油輸入の中東依存度は8割超に達する。資源小国の日本は極めて高いリスクを抱え込んでいる。
政府や電力会社は、将来にわたって必要な電力を安定的に供給しなければならない。そのための政府のエネルギー政策や、電力会社の投資計画などを決める際の目安となるのが電源構成だ。火力と原発、再生可能エネルギーの3つの電源を組み合わせて設定する。
最適な電源構成には「S(安全)+3E(経済性・環境性・エネルギー安全保障)」を考える必要がある。これらをバランス良く組み合わせることが求められている。
その観点でみると、現在の日本の電源構成がいかにいびつなものかが浮かび上がる。電力会社は震災後に燃料購入費が急増。増加分は年間3・7兆円にのぼり、相次いで電気料金の値上げに踏み切った。全国平均の料金は震災前に比べて家庭用で2割、産業用では3割も値上がりしている。
原発停止の長期化で北海道電力が昨年、追加値上げしたのに続き、関西電力も再値上げを申請中だ。原発の再稼働が遅れれば、他社も追加値上げを打ち出す恐れがあり、料金引き上げの連鎖は消費の下押し圧力になりかねない。
原発の稼働停止は環境にも影響を与え、火力比率の上昇で温室効果ガスの排出量も増えている。
政府は2030年時点の原発比率を「15~20%」とする方向で検討中だ。原発は「40年運転」が原則とされ、これを厳格に適用すると国内に48基ある原発は、30年時点で18基にまで減少し、原発比率は15%となる。
ただ、これでは30年以降も原発は減り続け、40年代にゼロになる。これを防ぐためには古い原発の運転延長に加え、新増設を含めた電源確保が欠かせない。
安全性を高めた原発を開発し、世界に提供することは原発事故を引き起こした日本の責務でもある。そのためには25%の原発比率を目指すべきだ。
日本エネルギー経済研究所は30年の電源構成を複数想定し、日本経済に対する影響を試算した。それによると「原発0%、再生エネ35%、火力65%」の場合に比べ、「原発30%、再生エネ20%、火力50%」は、国内総生産(GDP)が10兆円多かった。火力向けの燃料輸入が減り、料金上昇が抑えられるためだ。
そして同研究所では、原発と再生エネが25%ずつ、火力が50%の電源構成が「経済や環境への影響などを総合的に考えると、最も望ましい」(柳沢明研究主幹)としている。
原発に対する世論は依然として厳しい。だが、日本の将来にとって、原発の活用を含めたベストミックスの設定は不可欠だ。政府は原発の必要性を国民に説明することから逃げず、正面から議論に取り組まなければならない。
温室効果ガス削減の障害に 国際的枠組み、乗り遅れも

今年末にパリで開かれる気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で、2020年以降の温室効果ガス削減の新たな国際的な枠組みが決まる。政府が電源構成の策定を急ぐ背景には、日本がこの枠組みから取り残されないようにする狙いもある。温室効果ガス削減には二酸化炭素(CO
2)を排出しない原発や再生可能エネルギーの拡大が不可欠だ。
昨年12月にペルーで開かれたCOP20に出席した望月義夫環境相は「徹底した省エネ社会の実現を進めていく」と強調した。だが、日本の決意が各国にどこまで届いたかは不明だ。かつて環境先進国としてCOPの議論を主導してきた日本だが、現在は原発の稼働停止が長引いて温室効果ガスの排出量が増え、20年以降の具体的な削減目標が示せなかったからだ。
これに対し、会議ではこれまで温室効果ガス削減に消極的だった2大排出国の米国と中国の動きが目立った。両国首脳は温室効果ガス削減で合意し、米国は「25年までに05年比で26~28%の削減」、中国も「30年ごろをピークに排出量を減少させる」と表明した。
一方、13年度の日本の温室効果ガスの排出量は、13億9500万㌧と過去最高を記録した。国内ではCO
2排出量の約4割を発電部門が占める。温室効果ガスの増加は、原発停止でCO
2排出が多い石炭などを燃料とする火力発電の稼働が増えたのが大きな要因だ。
COP21で日本が温室効果ガスの削減目標を示すためには、こうした火力の比率を低く抑え、原発と再生エネの拡大が鍵を握る。
だが、原発は原子力規制委員会による審査が停滞し、ほとんどの原発は再稼働の時期が見通せない。再生エネ導入をめぐっても固定価格買い取り制度の設計の甘さが露呈し、導入拡大の道筋は不透明だ。
再生エネ拡大 制度再設計が急務

政府は今年6月、ドイツで開かれる7カ国首脳会議(サミット)までに具体的な電源構成を決め、温室効果ガスの削減目標も示したい考えだ。日本に残された時間は少ない。
政府は電源構成に占める再生エネ比率を2030年に20%以上に高める方針だ。だが、再生エネは発電コストが高く、送電網への接続容量も増強する必要がある。導入拡大には課題も多い。
太陽光などの再生エネを20年間にわたって電力会社が買い取り、電気料金に上乗せする制度は約3年前に導入された。だが、高値での買い取りを決めたことで申請が殺到。九州など5電力は受電調整ができなくなり、大規模停電の恐れがあるとして買い取りを一時保留する事態となった。
このため政府は1月、電力供給が需要を上回る恐れが生じた場合、太陽光の発電業者に対し、出力抑制を強制できる新ルールを制定した。また、政府は送電網の増強工事などの費用について、発電業者が負担する仕組みなども検討中だ。再生エネ導入には制度設計の見直しが急務だ。
さらに太陽光が9割を占める再生エネの普及動向を改善し、地熱などの利用を拡大したい考えだ。ただ、地熱や風力などは太陽光に比べて環境規制や地権者の同意などの問題も残る。どこまで普及が進むかは不透明だ。
環境負荷が小さい再生エネに対する期待は大きい。しかし、出力が安定しない太陽光などは安定電源にはなり得ない。その利用拡大には他の電源を組み合わせて上手な活用を考える必要がある。