本コラムで、しつこく取り上げてきたウイグル問題が、ようやく世界の主要テーマとなりつつある。とはいっても、多くのウイグル人が塗炭の苦しみから解放されるには、まだ時間がかかる。だが、それでも、英国や米国、オーストラリアなど先進諸国のこの件への「本気度」が、今年に入り格段に高まっていることには希望を感じる。
皮切りは、英国政府が1月12日、ウイグル人の強制労働の関与が疑われる中国産品の英国への流入阻止を強化すると発表したことだ。この禁輸強化措置は、原材料の調達の際に注意義務を怠った企業に罰金を科すことも含む厳しいものだ。
この対応は、オーストラリアのシンクタンクが昨年3月に発表した、ウイグル人の強制労働に関する調査報告書の内容ともリンクしている。同報告書には、多くのグローバル企業が、ウイグル人の強制労働によって生産される素材や部品の供給を受けている疑いありと記され、日本の大企業14社の実名も挙げられていた。
英国による、ウイグル人強制労働への事実上の制裁措置にはカナダも同調することが報じられた。つまりこの一連の流れは、英国、オーストラリア、カナダという連邦国による対中制裁策と言っていい。
この動きに呼応するかのように、約1週間後の1月19日、米国政府が「中国政府によるウイグル人弾圧はジェノサイド(民族大量虐殺)だ」と認定したのだ。ドナルド・トランプ前政権、特にマイク・ポンペオ前国務長官の「置き土産」のような重い「認定」となった。
2月に入ると、英BBCが収容所でのウイグル女性への集団レイプの実態を告発。国際社会での怒りの声はさらに高まる。
こうした状況を受け、カナダの下院も今月22日、中国当局はウイグル人らイスラム教徒少数民族に対し、国際法上の犯罪である「ジェノサイド」を行っていると批判する動議を採択した。
この動議は、最大野党の保守党が提起し、ジャスティン・トルドー政権にも公式見解とするよう求めた。同時に動議は、カナダ政府に対し、2022年の北京冬季五輪の開催地を他の国に変更するよう国際オリンピック委員会(IOC)に働きかけることも求めている。
こうしたなか、格段遅きに失してはいるが、わが国でもようやくウイグル問題への「動き」が出てきた。2月10日には、もともと自民党議員により組織されていた「日本ウイグル国会議員連盟」が、超党派議連として再スタート。筆者も、引き続き「アドバイザー」を仰せつかり、出席したが、立憲民主党や日本維新の会、国民民主党などから、党幹部や大臣経験者が出席してくれたことは心強く思った。
国会議員に解決を望む目の前の課題としては、(1)日本国籍のウイグル人の家族が強制収容されている問題(2)中国国籍のウイグル人が、旅券の更新がされず難民化する問題-などがある。
それらの課題解決と並行して、何としても今国会で、他国並みに、中国のウイグル弾圧を厳しく非難する国会決議をしていただきたい。
その決議にはぜひとも、カナダに倣って、「2022北京冬季五輪の開催地変更の働きかけ」という文言も盛り込んでほしいものだ。さらに加えて、「代替地として、わが国の札幌か長野でどうか」という一文があってもよいのではないか。
「わが国・日本こそが、人権と自由の砦(とりで)たらん」という、どこよりも強い意思をこの機に表明すべきだからだ。森喜朗氏の「失言」を「五輪精神に反する」と大声で批判した政治家やマスメディア、文化人らもこぞって賛成してくれるはずである。
■有本香(ありもと・かおり) ジャーナリスト。1962年、奈良市生まれ。東京外国語大学卒業。旅行雑誌の編集長や企業広報を経て独立。国際関係や、日本の政治をテーマに取材・執筆活動を行う。著書・共著に『中国の「日本買収」計画』(ワック)、『「小池劇場」の真実』(幻冬舎文庫)、『「日本国紀」の副読本 学校が教えない日本史』『「日本国紀」の天皇論』(ともに産経新聞出版)など多数。