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【朝鮮半島ウオッチ】北に甘い日朝合意、拉致被害者を取り戻せるか?

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産経新聞

 日朝合意により、今月20日ごろには北朝鮮の特別調査委員会が立ち上がり、北朝鮮で「全ての日本人に関する調査」が始まる。安倍晋三首相は「拉致被害者救出の交渉の扉を開けることができた」と述べたが、合意文の内容は北朝鮮に有利で、調査の実効性の担保はないに等しい。委員会立ち上がりの時点で日本は独自制裁の一部を解除する。調査の成果も問わず制裁を解除するという安倍政権に、本当に拉致被害者奪還の勝算はあるのか?(久保田るり子)

■ユルユルの日朝合意は、北朝鮮に足元を見られていないか!

 「拉致被害者が戻ってこなければ、制裁の解除はおろか1円の支援もすることはない」と古屋圭司拉致問題担当相が述べたのは、めぐみさんの両親がウランバートルで孫娘のウンギョンさんと面会した直後、3月中旬の記者会見だった。しかし、これに北朝鮮側が抗議した。

 「発言を撤回しなければ日朝協議をもうやらない」

 日本政府はこの抗議に屈した。

 古屋氏は2日後に制裁解除や支援に関する発言を行い、「拉致問題解決のため、あらゆるチャンスをとらえていく」とトーン・ダウン。結局、委員会のメンバー決まった段階で調査が開始されたと見なし、独自制裁の一部解除を行うという2008年8月(福田政権)の日朝合意と同じパターンになった。

 日朝合意について日本政府の協議筋はこう自己評価する。

 「確かに日本側に何が取れるという確たる担保はない。だが、北朝鮮側にも(日本から支援が取れるという)担保はない合意なのだ。いまは、交渉を開始することが最も重要。本番はこれからだ」

 しかし、合意には北朝鮮に甘い部分が目立つ。拉致被害者、行方不明者が見つかった場合の日本帰国に関する部分で文書にはこうある。

 『状況を日本に伝え、帰国させる報告で去就の問題に関して協議し、必要な措置を講じることにした』  拉致被害者家族の関係者は「帰国させるかどうかを北朝鮮側と協議するなど、ナンセンスもいいところだ。本人たちは北朝鮮内では自由に話せない。政府はどういうつもりなのか」と怒る。

 日本政府は今回、『帰国させる方向』という文言を文書に入れたことを「成果」としている。だが、帰国など去就そのものを交渉の対象としたところは、被害者奪還に関する認識の甘さを露呈させた格好だ。

 また、文書で『人道的見地から、適切な時期に、北朝鮮に対する人道援助を実施することを検討する』とした部分も、不透明性の指摘を免れない。

 拉致再調査という厳しい交渉では利益誘導も避けられないが、今回の合意文には“歯止め”がなく、北朝鮮側が値段をつり上げやすく書かれている。これでは足元をみられかねない。特に今回は米国、韓国など関係国が懸念を持っている。安倍政権の日朝交渉を対北制裁網破りとの疑念の目を向けているのだ。それだけに「人道的支援」については、関係国への十分な説明と透明性が求められている。

■「特別調査委員会」ってどんな委員会?

 日本は「特別調査委員会」のトップが誰になるかを注目している。委員会は、「全ての対象に対する調査を具体的かつ真摯に進めるための特別の権限が付与された特別調査委員会」となっている。つまり工作機関などの特殊な機関も調査できることを想定しているようだ。これは小泉訪朝の経緯を踏まえた内容だが、問題はその「特別な権限」を日本がどう確認できるかにある。それについての記述はない。

 北朝鮮に詳しい情報関係者によると、日本人拉致被害者の大半は、被害者の事情によって3部署に分かれて管理されているとされる。3部署とは朝鮮労働党最大の権力部署である組織指導部、対日対南工作機関の統一戦線部、秘密(政治)警察だ。

 もし3部署への調査を行うとしたら、3機関の特殊性から金正恩第一書記の決済がなければ調査は不可能だ。北朝鮮はそのような委員会を本当に編成するのか。「特別な権限」とは即ち北朝鮮の深部に関わる。その調査を第三国の日本に検証させるというのは、北朝鮮の実態からすると荒唐無稽な話となる。

■再調査とは「8人を生き返らせる交渉」

 政府認定拉致被害者17人(うち5人はすでに帰国)に限っていえば、「そもそも再調査するまでもなく、特別に管理されている人々」との見方が一般的だ。帰国者を除く12人のうち2002年の日朝首脳会談で「8人死亡」とされており、安倍政権の最大の課題は「死んだとされた8人を生き返らせること」である。だが、合意で拉致被害者は「1945年前後に北朝鮮域内で死亡した日本人の遺骨」にはじまり「拉致被害者及び行方不明者を含むすべての日本人」の一部に過ぎない。

 北朝鮮側の狙いは合意にある「域内で死亡した日本人の遺骨及び墓地」に関する遺骨収集、墓地整備での日本資金の獲得にあるのは明白。遺骨収集を北朝鮮に「金づる」にされない工夫が必要だ。交渉は予断を許さない。その主導権を持つには、情報を集約し国際協調も使い、あらゆる手段を使う必要がある。

写真一覧

  • 日朝政府間協議の結果について感想を話す北朝鮮による拉致被害者、横田めぐみさんの父、滋さん(左)と母、早紀江さん=28日、川崎市内
  • スウェーデンでの日朝協議後、経由地の北京で報道陣の質問に答える北朝鮮の宋日昊・朝日国交正常化交渉担当大使=2日(共同)
  • 北朝鮮による拉致被害者、横田めぐみさん。再調査でめぐみさんらを「生き返らせる」ことが最重要課題だ
  • 日朝合意を報じた30日付の韓国各紙(共同)
  • 北朝鮮がすべての拉致被害者に関し全面的調査を約束したことを発表する安倍晋三首相=29日午後、首相官邸(酒巻俊介撮影)

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