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【想う 10年目の被災地】震災前の荒浜、残したい 「海辺の図書館」の庄子隆弘さん(47)

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「海辺の図書館で訪れる人を待ちながら、一つ一つできることをしていきたい」と語る庄子隆弘さん=仙台市若林区(塔野岡剛撮影) 1/1枚  東日本大震災で甚大な被害を受けた仙台市若林区荒浜地区。海から200メートルほど離れた場所に、「海辺の図書館」がある。図書館といえど、本はない。震災前に荒浜に住んでいた人や、ボランティアで県外から訪れていた人が週末に集まり、昔の荒浜の話をしたりする場所だ。震災後の平成26年、津波で流された自宅の跡地に建てた。

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 「荒浜の震災以前の暮らしを残したいと考えていました。地域の面白さが、世代を超えたコミュニケーションから生まれる場所です」

 荒浜で生まれ育った。大学卒業後、司書の資格を取得し、会社員として仙台市内の図書館で働く。震災があった23年3月11日も、東北学院大泉キャンパス(同市泉区)の図書館で勤務中だった。

 「震災当時は両親と祖母の4人暮らしでした。大きな揺れに襲われた後、しばらくして自宅に戻ろうとしました。ただ、自宅から4~5キロ離れたところで、津波のため、通行止めになっていました。当時、津波はまったく想定していなかった。『荒浜に津波は来ない』ともいわれていました。家がなくなったかもしれないと思いました」

 自宅は津波で流失したものの、家族は全員無事だった。仮設住宅での暮らしが始まったが、震災直後から自宅跡地に足を運んだ。椅子を出し、読書にふけるなど思いのままに過ごした。毎週、荒浜に通ううちに、そこにいる人との会話も生まれた。「災害危険区域」に指定され、人が住めなくなった荒浜の痕跡を残したいと思った。

 「仙台市という『100万都市』にありながら、都市部とは全然違う文化がある。荒浜という土地に震災前には気が付かなかった面白さを感じた。まるで、本で読んでいることを実体験しているかのように。そこで、本のない図書館がいいなと思いました」

 図書館は本を読むだけでなく、生きづらさを感じている人の「隠れ家」にもなる場所だ。海辺の図書館も、訪れる人を拒むことはない。

 「人が戻ってきたときに、立ち寄れる場。海辺の図書館はそういう形になってきています。例えば、荒浜出身の年配の人が訪れて話をするとき、荒浜で代々紡がれてきた鳥かごの作り方、竹ひもの作り方なんかの話をする。もちろん技術もすごいけれど、『そんなの当たり前だっちゃ』と言いながらうれしそうに話をしています。もっと、荒浜に住んでいた人が海辺の図書館を訪れてくれることが私の夢です」

 震災は今年3月で発生から10年。節目といわれることには違和感を覚えるが、時間の経過で変化したこともあるという。

 「これまで生活を再建する中で、自分にできることをしてきたことは特別な時間でした。ただ、普段仕事をして、週末になると海辺の図書館に行くことが、昨年ぐらいから自分の日常になった気がする。10年という時間で熟成した部分だと思います。今後も、海辺の図書館で訪れる人を待ちながら、一つ一つできることをしていきたいです」(塔野岡剛)

 ■しょうじ・たかひろ 昭和48年11月生まれ。仙台市若林区荒浜出身。「海辺の図書館」を運営するほか、一昨年からは、地域住民やボランティアによる荒浜の砂浜の清掃活動「深沼ビーチクリーン」(毎月の第2日曜日)の開催にも携わっている。

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