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渡辺えり「夢のない世の中は殺伐とする」

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産経新聞

演劇を続けるため大好きな居酒屋も“封印”して感染予防している渡辺 (撮影・土谷創造) 1/2枚 【私を支えた言葉】

 女優の渡辺えり(66)は、ドイツのメルケル首相が昨年5月9日、演説で国民に向け「文化的催しは私たちの生活にとってこの上なく重要だ」と語りかけたことに感銘を受けた。

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 日本では同4~5月の緊急事態宣言下で全ての公演が中止や延期を余儀なくされ、演劇界が存続の危機に。文化芸術は長い年月をかけて培われ、一度途切れると再興には大きな困難が伴う。この有様を出身地・山形県の特産品に例える。

 「サクランボが今のように甘くなるまで苗木を植えてから150年かかる。芸術も手間暇がかかる。根元が腐ると次世代に渡せないんです」

 国からは中小・小規模事業者に対する持続化給付金などの助成制度はあったが窮状を救うには至らない。「将来をあきらめて田舎に帰ってしまった人が大勢いる。でも休業補償があれば、それを元に『次』ができる」。

 何とかしなければと、日本劇作家協会会長として動いた。演劇、ライブハウス、ミニシアターの各業界団体3者が共同で昨年5月22日、「文化芸術復興基金」の創設など国の支援を求める要望書を文化庁、経産省、厚労省に提出。「私も演劇とミニシアターとライブハウスに命を救われた人間。その恩を一生かけて返していきたい」。

 国は第2次補正予算で、フリーランスを含む文化芸術・スポーツ団体に対する助成制度として計約580億円を予算化した。業界団体3者はその後も昨年10月と、今月13日に支援を求める要望書を国に出している。

 渡辺は演劇界のために奔走すると同時に自分の活動も模索した。昨年3月には主演舞台「有頂天作家」が中止に。それでも8月には連続公演「女々しき力」の実現にこぎつけた。この中で自身の新作「さるすべり~コロナノココロ~」など3本を演出し、2本に出演。今年は2月に「喜劇 お染与太郎珍道中」の公演が東京と京都で控える。

 「暗い世の中を吹き飛ばす」と意気込む一方、新型コロナウイルスの感染対策には人一倍神経を使う。「(関係者に)感染者が一人でも出たら公演は中止。命がけです」。

 予防のための基本的な対策はもちろん、大好きな居酒屋にも一切行っていない。笑いながら話すが、「ものすごくつらい」と本心もチラリ。

 それでも踏ん張れるのは「夢見る力」の言葉が支えになっているから。演劇を続けることを親から反対されるなどつらい思いをしていた20歳の時、自ら考え出した。

 「夢のない世の中は殺伐とする。夢をなくしてはいけないと自分に課した言葉です」

 これまで何度もくじけそうになるたびに思い起こしてきた。コロナ禍はまだ先が見通せない。だからこそ、改めてかみしめている。

 (取材・構成 梶川浩伸)

■渡辺 えり(わたなべ・えり、本名・渡辺えり子)

 1955(昭和30)年1月5日生まれ、66歳。山形市出身。舞台芸術学院、青俳演出部を経て、現在は女優、劇作家、演出家と幅広く活躍。2007年に芸名を「えり子」から「えり」に改名。19年から日本劇作家協会会長。1983年、岸田國士戯曲賞。97年に日本アカデミー賞最優秀助演女優賞など。今年2月には新橋演舞場(1~17日)と京都・南座(21~27日)で、八嶋智人との喜劇初顔合わせ「喜劇 お染与太郎珍道中」に主演。

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  • 2月からは「喜劇お染与太郎珍道中」で八嶋智人(右)と共演(c)松竹

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