皆さん、『グラン・プリ』という映画をご存じだろうか? 日本では1967(昭和42)年に公開されたレース映画だ。
ジェームズ・ガーナー主演で、日本からは世界の三船敏郎さんも参加されてる。もともとはスティーブ・マックイーン主演のはずが、なぜ降りたかが諸説ありすぎてハッキリしない。
三船さんが、この映画はドキュメンタリーだから、スターはいらないと言ったとか言わなかったとか。また、シャンソン歌手の大御所、イヴ・モンタンがレーサー役で出演してるが、むちゃくちゃしゃれててカッコいいんだ!
だが、何よりも、この映画の監督、ジョン・フランケンハイマーがすごい。本物のモナコグランプリのレース中に撮るという暴挙! 当然、レース場ではすべての人から疎まれ嫌がられ。でも諦めない、くじけない。
早々にフェラーリが協力を断れば、短編に編集した映像をどうだ! とばかりにフェラーリ本社に映写技師を従えて乗り込み、無理矢理に見せたかと思うと、その結果、全員が超感動。フェラーリ全面協力となる!
まるで、金と時間がかかり過ぎてるから、やめろ! といわれ、そこまで撮った映像を上層部に見せ、「黒澤くん! 続けなさい!」と言わしめた『七人の侍』の黒澤明監督のエピソードのようだ。
今はブルーレイも発売されており、その特典映像に幸運にもメイキングがあるが、ジョン・フランケンハイマー監督は超完璧主義者で、とにかく現場で怒鳴りまくってたらしい。監督いわく「評価されるのは他の誰でもなく俺。ダメなら仕事がなくなり、良かったら仕事が山ほど舞い込む。だから厳しく言うんだ。それがみんなの気分を害していたならすまない」。
最近、和やかに現場を進めるのがグローバル・スタンダードではあるが、僕自身どっちが良いのかは分からない。まぁ、答えはすべてでき上がった作品の中にある、ということになるのか。
現代は、あらゆるテクノロジーが進化し、レースシーンが売りの新作の映画もいくつかあるが、僕はこの映画をおいてレース映画の最高峰はないと断言したい。
何しろ、実際にはF3の車ではあるが、本物の俳優に技術を教え込み、本当に運転させ、レースシーンを撮ったこと。映画の中の車載カメラの揺れを止めるためのカメラマンたちの努力と創造。映画を見ながら気持ち悪くなったのは生まれて初めてだ。
現在、コロナ禍でどうにもこうにもならない状況ではあるが、こんな素晴らしい映画と出会えるステイホームの機会ができたことだけは良しとしたい。
■高嶋政宏(たかしま・まさひろ) 1965年10月29日生まれ。東京都出身。87年、映画『トットチャンネル』で俳優デビュー。『パレ・ド・Z~おいしさの未来~』(BSフジ)の最新作が23日午後3時から放送決定。過去の放送分はYouTube公式チャンネルで公開中。映画『ドリームズ・オン・ファイア』が3月13日から順次公開予定。