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治験の大量文書をクラウド管理 医療業務を健やかに速やかに アガサ・鎌倉千恵美社長

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産経新聞

アガサの鎌倉千恵美社長 1/1枚 【トップ直撃】

 新型コロナウイルスのワクチン開発でおなじみになった「治験(臨床試験)」だが、治験の際に大量の書類が発生し、コストや時間がかかる要因の一つになっていることはあまり知られていない。これをデジタル化してクラウドで管理するシステムを国内外で展開する製薬DX(デジタルトランスフォーメーション)企業は、「世界中の人々の健やかな人生のために」を掲げ、日々走り続けている。(中田達也)

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 --紙で管理されている治験の資料をデジタル化する狙いは

 「たとえば10カ所の病院で医薬品の治験を行う場合、製薬会社と病院の間のやり取りは紙で行われ、膨大な量になっています。これを電子化し、クラウド管理することで作業をスピードアップし、効率化するというコンセプトです」

 --紙の書類はたいへんな量になるとか

 「1つの病院で年間2トントラック1台分ぐらいになります。治験の段階が進めば進むほど前のデータを含めて膨大になっていきます。1つの病院で副反応が発生した場合、製薬会社からほかの病院にも数百ページのリポートを郵送する必要があり、それだけで1週間から10日ぐらいはかかります」

スト削減、データをバックアップ

 --書類の管理はどのように

 「一部は病院で保管しますが、処分する際も溶解させるのでコストがかかります。コロナのワクチンでも日本はすごく時間がかかっているといわれますが、そうしたことも一つの原因になっていると思います」

 --治験に関する作業のうち、研究は約4割で、約6割が事務作業だそうですね

 「製薬会社の人が病院を訪問して、治験のデータや手続きがきちんとしているか、2時間程度のチェックをするために1泊2日で出張するなど、多くのコストがかかっています」

 --アガサのシステムを使うメリットは

 「製薬会社さんが文書をクラウドでアップしたら、一瞬にして全ての医師に届くのでスピードアップにもなりますし、作業のコストも削減できます。過去のデータを調べる場合も院内外の倉庫を探す必要はありません。データセンターは東京に2カ所と大阪にあり、計3段階でバックアップしてます」

コロナで問い合わせ5倍、施策拡大

 --治験データの電子化の現状は

 「2020年で10%程度です。病院と製薬会社がお互いに合意しないと電子化できないという問題もありますが、徐々に進んでいます」

 --コロナ禍の影響はありますか

 「基本的に外部の人が医療機関を訪問できなくなったこともあり、治験を進めるには電子化するしかないということで、問い合わせが5倍ぐらいになりました」

 --さらに拡大する施策はありますか

 「日本医師会のシステムとの連携を発表しました。いま治験を実施している医療機関は日本全体で4000ぐらいありますが、うち2000ぐらいが日本医師会のシステムを使っています。これまでアガサを使っていた医療機関は300ぐらいだったのが、2300の医療機関で使えるようになったことで、問い合わせがまた増えています」

 --海外展開も進んでいるそうですね

 「米国、フランス、中国、イスラエル、ドイツ、イタリアなど8カ国で展開しています。海外の売り上げはシェアは約20%で、こちらも引き合いが増えています」

 --コロナ関連の治験にもシステムが使われているそうですね

 「アガサを使ってコロナ関連の治験などをしているところもあり、社員のモチベーションも上がっています。医療機関の人たちが余計な時間を削減できて、より患者さんに寄り添ったり、治療に専念したりすることができればうれしいですね」

 --今後の目標は

 「電子化が進めば、次はAI(人工知能)による書類チェックや、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)による書類作成の自動化にも取り組みたいですね。病院と製薬会社をつなぐことで、病院で使う人と製薬会社で使う人をつなげるというのが私たちの仕事だと考えています」

 【キュリー夫人】人口約3000人の自然豊かな町で育った。「子供の頃はキュリー夫人の伝記を読み、研究を頑張って世の中のためになる発見をしたところにあこがれました」

 【進学】「手に職をつけて早く働きたい」と高専に進学。「将来的にできそうな仕事と考えて情報工学科を選びました」

 4年生大学に編入して大学院まで進み、郵政省(現総務省)に入った。「周波数の国際調整をしていました。日本の衛星放送の電波が欧州の携帯電話に干渉するので国と国とで交渉するといった仕事でした」

 【転職】日立製作所に転職。2年間米ヒューストンの大学に留学し、医療関連企業でのインターンも経験したことも、のちの起業に影響したという。

 帰国後、医療機関や製薬会社向けのITソリューションを提供する業務に携わった。「そこで治験にものすごい紙が使われていることを知りました」

 【起業】その後、米ベンチャー企業の日本支社代表となり、製薬会社向けのシステムを提供していたが、「米国の会社が買収されてしまい、日本支社は閉鎖されることになりました。そこで、エンジニアとともに起業を決めました」。

 【手放せない一品】ストウブの鍋。「煮込み料理が好きですが、一番好きなのはカレーで、基本的に毎日食べています。大根が入り、だし汁を使った和風カレーなど、冷蔵庫にある野菜の組み合わせに挑戦しています」

 【マラソン】8年ほど前、ダイエットのために走り始め、一昨年にフルマラソンで3時間51分の自己ベストを達成した。「平日は5キロ、休日は15キロぐらい走ります」。ブルックスのランニングシューズがお気に入りだ。

 【好きな本】司馬遼太郎の『竜馬がゆく』『坂の上の雲』。山崎豊子の『大地の子』など。

 【座右の銘】《志高く、事を成す》

 【仕事で最高の瞬間】東京女子医大がアガサの最初の顧客に決まったとき。「開発に半年かかり、利用してくれるのか自信がなかったので、最初に契約してくれると言ってもらえたときは感激しました」

 【もしいまの仕事に就いていなかったら】「留学先のテキサスにはメキシコ料理店が多く、中ジョッキのようなグラスにマルガリータが出てくるんですよ。そんな『マルガリータバー』をやってみたいですね」

 【会社メモ】医療機関や製薬会社向けのクラウド型文書管理システム「Agatha(アガサ)」を運営する。本社・東京。2015年設立。東大、京大の付属病院など国内外約300の医療機関と、約50社の製薬会社などで導入されている。売上高は非公開、従業員数40人(日本人22人、外国人18人。女性23人、男性17人)。社名の由来は「Aspirations for Good Health and Life(世界中の人々の健やかな人生のために)」から。

 ■鎌倉千恵美(かまくら・ちえみ)1974年1月生まれ、47歳。愛知県音羽(おとわ)町(現豊川市)出身。豊田工業高等専門学校、名古屋工業大卒。同大学院修了後の1998年郵政省(現総務省)I種技官に。2001年日立製作所に転職、米ライス大に留学しMBA取得。11年米ネクストドックス日本支社代表を経て、15年にアガサ設立、代表取締役社長に就任する。

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