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出鼻くじかれた医療DX マイナンバーの保険証活用が延期に

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産経新聞

特別定額給付金のオンライン申請が始まり、マイナンバーカードの取得手続きなどで混雑する大阪市浪速区役所の証明発行窓口=令和2年5月 1/1枚 【ビジネス解読】

 マイナンバーカードを健康保険証として利用できる仕組みの本格運用が、当初予定の3月下旬から10月に延期された。3月4日から試験運用が開始されたが、保険組合による加入者データの誤入力などにより、個人情報が正確に確認できないといった不具合が相次いで発生したためだ。超高齢化が進む中、「医療」をテコにIT技術を社会に浸透させて生活を改善する「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の取り組みは、出ばなをくじかれた格好だ。

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 厚生労働省は令和2年7月、「データヘルスの集中改革プラン」を示し、医療や社会保障関連のデジタル化を一気に進める工程を描いた。必要な法改正を経て、4年夏までを目途に運用開始するとした分野は、以下の3つが柱となる。

 (1)各医療機関でバラバラに管理されている手術や薬剤といった患者の医療情報について、患者が全国の別の医療機関で活用できる仕組みを拡大する。

 (2)処方箋を電子化して、重複投薬を回避し、処方や薬局での薬の購入を効率化した仕組みを構築する。

 (3)スマートフォン(スマホ)などを通じ、個人が自分に関する医療や健康診断などのデータを拡大する。

 こうした医療や健康管理におけるデジタル化の突破口が、マイナンバーカードと保険証という、2つの既存システムの融合だった。顔写真データも入ったカードには、電子証明がICチップに組み込まれている。これをリーダーで読み取れば、カードを保険証代わりに利用できる仕組みだ。

 ただ、マイナンバーカードはあくまで「鍵」の役割にすぎない。その先の保険情報は、サラリーマンなどが加入する健康保険組合や中小企業向けの全国健康保険協会(協会けんぽ)などが、保険資格情報の管理などを委託している、社会保険診療報酬支払基金や国民健康保険中央会(国保中央会)など仲介機関のデータ管理システムにある。

 カードを保険証として利用するためには、申し込みが必要だ。申請は、自治体窓口、設備を置いた医療関係機関、そしてマイナンバーカードを使って行政手続きをインターネット上でできるサイト「マイナポータル」で可能だ。

 実際に自分のスマホに同サイトのアプリを入れ、活用延期が決まる前の3月22日、カードの保険証利用を申請してみた。「正常に受け付けました」との表示で手続き完了を確認できたが、自分の保険証番号などをさらに打ち込む必要はなかった。すでに自分の保険情報を管理している仲介機関でカード番号とひもづけられており、保険資格照会などの「オンライン資格確認」が行われるからだ。

 今回、問題が発生したのは、これら仲介機関に健康保険組合などが誤った番号を入力し、個人番号と保険証の番号が正しくひもづけられていなかったためだ。誤入力は一時、3万件以上となった。加入者自身がマイナンバーを健保に提出していないケースなども含めると、約180万件で登録できなかった。

 厚労省の社会保障審議会医療保険部会は3月26日、仲介機関などのサーバー(登録者約1億2248万人)で、これらの不具合が発覚したとして、本格運用の開始を10月に延期すると表明した。担当者は、「ビッグデータの実際の運用は想定していた以上に難しかった」と打ち明ける。6月末までに個人番号が正しく入力されているかどうか確認できるシステムを新たに導入する方針だ。

 今後、試験運用を続けながらマイナンバーカードが利用可能な医療機関や薬局を徐々に拡大し、遅くとも10月までに、10万施設で使えるようにするという。

 もっとも、全国の医療機関と薬局約23万カ所のうち、カードの保険証利用の試験運用は、3月4日から全国500機関を予定していたが、22日時点で54カ所にとどまっていた。また、カード交付数は21日時点で3491万枚だが、保険証としての利用申し込みは311万件で8・9%に過ぎなかった。今後も予定通り進むかは疑わしい。

 データの利活用に関する調査などを行う国際経済連携推進センターが今年1月下旬に実施した調査では、医療情報を医療機関や薬局がオンラインで共有するこのシステムについて、76・8%の人が利用意向を持っていると回答した。だが、自分の医療情報を提供することを許容する範囲については、「かかりつけの医療機関」とした人は67・5%だったのに対し、「全国全ての医療機関」としたのは31・2%だけだった。システムを利用したくないとの回答も23・2%に上った。

 同センターの担当者は、自分の医療情報を全国の医療機関で共有されることへの警戒感は予想以上に強かったとして、「国民に対し情報提供を求めるならば、情報提供先の信頼性と安心感を確保することが重要だ」と指摘している。(経済本部 吉村英輝)

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