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こんなに頑張っているのに、なぜ日本だけGDPが回復しないのか

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ITmedia News

 春だというのに暗い気分になりそうな、景気の悪い話が聞こえてきた。

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 早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問の野口悠紀雄氏の「弱いGDP回復力、コロナで日本の国際的地位は低下する」(ダイヤモンドオンライン 4月1日)によれば、IMF(国際通過基金)の推計をもとに中国、フランス、ドイツ、イタリア、イギリス、アメリカ、日本の2019年から21年へのGDP増加率を比較したところ、日本が0.46%と最低だった。

 中国(14.5%)を筆頭に、ドイツ(11.8%)、フランス(7.4%)などほとんど国が2%以上成長をしている。1日ウン万人という新規感染者が出て、いまだにロックダウンを繰り返し失業者も大量にあふれている国でさえ、着々と経済が回復しているにもかかわらず、日本だけがパッとしないのである。

日本経済はなぜパッとしないのか(出典:ゲッティイメージズ)

日本経済はなぜパッとしないのか(出典:ゲッティイメージズ)

 このような状況に対して、「日本経済の回復が遅いのは、経済活動より感染封じ込めを重視しているからだ」とコロナを言い訳にする人たちもいるが、実はコロナのはるか以前から、日本のGDP成長率は先進国の中でダントツに低かった。

 要するに、もともとパッとしていなかったところ、周りの国々がコロナ危機の中でもたくましく成長をしてしまったものだから、パッとしなさ具合がさらに際立ち、結果、諸外国から完全に置いてけぼりをくらってしまったような形なのだ。

 なんてことを指摘すると、「日本の強さはGDPだけでは測れない!」「日本だけがこんな低いのはおかしい、IMFの推計が間違っているのだ!」などと現実逃避をしたくなる方もいらっしゃるだろう。筆者もそのお気持ちは痛いほど分かるし、心情的にはこんなデータはまったく納得がいっていない。というか、怒りさえ感じる。

 日本人はこの1年間、みんなで手を取り合って日常を取り戻すために必死で頑張ってきた。にもかかわらず、よその国よりも経済回復していないなんて、なぜこんな理不尽な話が許されるのかと強い憤りを感じるのだ。

結果が伴わないシステム

 客が来なくても店を開ける。売れなくても売り場に立つ。多くの日本人がそんな心がポキンと折れそうなつらい戦いを続けたのが、この1年だった。

 ようやく経済活動が復活できそうな明るい兆しが見えた途端、新規感染者がドカンと増えることの繰り返しに、「このままじゃコロナの前に死んでしまうだろ!」と不満を言いたいところをみなグッと抑え込んだ。「医療従事者の皆さんはもっと大変だ」と自分に言い聞かせながら、身も心もボロボロになりながら働き続けた人が職種を問わず、たくさんいらっしゃるはずだ。

 それがうかがえるようなデータもある。3月に米マイクロソフトが発表した「Work Trend Index」によれば、コロナ禍で疲れを感じている社員がグローバルでは39%、アジア全体では36%のところ、なんと日本では48%と突出して高くなっている。ストレスについても同様で日本の社員は45%で、グローバルの42%、アジアの39%を上回っている。

マイクロソフトが発表した「Work Trend Index」

マイクロソフトが発表した「Work Trend Index」

 こんなにも、よその国よりもストレスを抱えて疲弊するほど頑張っていたのだから、ある程度はその努力が報われていてもおかしくはない。しかし、現実はケタ違いに感染者があふれ、ロックダウンで失業者があふれていたような国よりも経済は冷え込んでいる。神も仏もないのか、と嘆きたくなるシビアな結果だ。

 では、なぜこうなってしまうのか。頑張りが足りなかった、サボって足を引っ張るような連中がいた、などいろいろなご意見はあろうが、筆者はシンプルに日本社会のシステムが、ブラック企業のそれと根本的なところで同じだからではないか、と考えている。

 お勤めした経験のある方ならばよく分かると思うが、ブラック企業というのは社員がどんなに不眠不休で働いても、気合と根性で仕事を取り続けても、会社の成長に結び付かない。瞬間風速的に売り上げは立つが、人力に100%依存したビジネスモデルなのでどこかで必ず限界に達する。競合にあっさり敗れるか、労務問題やパワハラ問題などで火を吹く。つまり、「個人が命をすり減らしながら頑張っても、結果が伴わないシステム」なのだ。

 そして実はこれはブラック企業だけに限った話ではない。日本の善良な労働者の多くは、そういう意識がないだろうが、日本経済は「個人の労働力」に徹底的に依存して、それを骨までしゃぶるシステムで成り立っているわりに、命をすり減らすほど頑張った個人への見返りが異常に少ない。

 その証左が、今や日本名物ともなった「低賃金重労働」だ。

「実質的失業者」問題

 日本人労働者の賃金が先進国の中で際立って低いことは、さまざまな客観的なデータが示す事実であり、最近ではいよいよ韓国にまで抜かれてしまったと話題になった。

 しかも、責任感からタダで働く、いわゆるサービス残業がまん延しているようにハードな働きぶりで知られている。有給取得率も低いし、精神的にもかなり追い込まれる。NHKも参加している国際比較調査グループ(ISSP)によれば、日本のパワハラ比率は25.3%と世界37カ国中第4位であり、主要先進国の中で際立って高い。

35歳以上のビジネスパーソンで、パワハラを受けたことがあるのは82%(出典:エン・ジャパン)

35歳以上のビジネスパーソンで、パワハラを受けたことがあるのは82%(出典:エン・ジャパン)

 ちなみに、このような日本のブラック企業化は、外国人犯罪も増やしていく。

 「低賃金重労働」がデフォルトなので当然、若者は少しでも条件がいい企業にわっと押し寄せて、重労働のわりに賃金が低い業者には誰も寄り付かなくなる。そこで言葉巧みに中国やベトナムから安価でこき使える、いわゆる「外国人労働者」を大量に迎え入れたわけだが、それらの国でも経済成長著しく賃金が急速に上がっている。そうなれば当然、「なんで安い給料でこんなにコキ使われるのだ」と不満が募るので、職場から逃げ出して不法滞在状態になる外国人も増えていく。その中には、犯罪に流れる者も出てくる。

 21年2月、群馬県警が20年中に摘発した在日外国人(永住者、特別永住者などを除く)が433人と過去10年で2番目に多く、このうちベトナム人が212人と国籍別で最多になったというニュースがあったが、こういう話が全国で雪だるま式に増えていくのだ。

 「確かに、日本の低賃金や長時間労働は問題だが、だからといって、それをブラック企業と重ねるなんて話が飛躍しすぎる」というご意見もあろうが、ほかにも共通点は山ほどあるのだ。

 例えば、ブラック企業のブラックたるゆえんの一つに、バイトや派遣労働者という雇用が不安定な人たちの弱さにつけ込んで、徹底的に使い倒すという卑劣な手法があることが知られているが、実はこれは日本経済の根幹をなすシステムでもある。

 それを象徴するのが、「実質的失業者」だ。

 これは野村総合研究所が、パート・アルバイトのうち、「シフトが5割以上減少」かつ「休業手当を受け取っていない」人たちのことを定義したもので、統計的な「失業者」「休業者」は含まれない。

 分かりやすく言えば、雇い主から「ごめんね、コロナで厳しいから今月はシフト半分で」なんてことを言われながらも本来もらえるはずの休業手当ももらえず、給料半額でしのいでいるパートやアルバイトの方たちのことだ。

労働搾取の構図

 そんな気の毒の人たちがいるなんて、と驚く正社員の方たちも多いかもしれないが今、飲食店、ホテルなどサービス業の現場にはこの「実質的失業者」が山ほどいる。野村総合研究所が2月に、全国20~59歳のパート・アルバイト就業者6万4943人を対象に調査をした結果と、総務省の労働力調査を用いて推計したところ、21年2月時点で、全国の「実質的失業者」は、女性で103.1万人、男性で43.4万人にのぼったという。

実質的失業者数は約150万人(出典:野村総合研究所)

実質的失業者数は約150万人(出典:野村総合研究所)

 では、なぜこのおよそ150万人もの方たちは、こんな常軌を逸したブラック労働に甘んじているのかというと、立場が弱いからだ。「シフトを減らすなら休業手当くださいよ」「それじゃ食ってけないから、ほかのバイトと掛け持ちします」などと不満を言って、雇い主の機嫌を損ねたら、もっとシフトが減らされてしまうかもしれないし最悪、クビになってしまうかもしれない。だから、どんなに理不尽なことを言われても、それに従うしかないのだ。

 この労働搾取の構図は、ブラック企業で異常な働き方を命じられても、ただただ従うしかない派遣やバイトの方たちとまったく同じである。

 このように弱い立場の人をこき使わなければ成立しない産業が残念ながら、日本の中にはたくさんある。良い悪いという話ではなく、これが偽らざる日本の姿なのだ。

 もちろん、このように言われたところで「はい、そうですか」とすんなりと受け入れられない人がほとんどだろう。ブラック企業のような悪い連中はほんのひと握りであって、ほとんどの日本人は搾取だなんだとは無縁だ。そう思う方が圧倒的に多いはずだ。

 ただ、日本のシステムがブラック企業のそれと同じだということの動かぬ証は、実はわれわれのすぐ身近にある。それは、「精神論」だ。

名ばかり管理職

 ブラック企業の特徴の一つに「精神論の押し付け」がある。「夢は必ずかなう」「会社は家族」「感謝を忘れない」などのパワーワードを連呼して、個人が死ぬ気で頑張れば、どんなむちゃな目標も実現できるという洗脳を施して、過重労働や長時間労働を「自分の意思で行う」ように仕向ける。

 また「名ばかり管理職」のように、責任感があるような肩書きを与えることで、「そんなことじゃ信頼されるリーダーになれないぞ」と尻を叩いて、精神論の押し付けを「下」の人間にまで波及させる。

 実はこれも日本社会あるあるで、苦しくなればなるほどこのように「精神論の押し付け」によって、面倒な問題を個人に丸投げする動きが活性化するのだ。その最たるものが、東京都が新たな感染対策として打ち出した「コロナ対策リーダー」だ。

 これは、都内の飲食店の店長や店員の中からeラーニングで感染対策のポイントを学び、率先して感染防止策に取り組む「コロナ対策リーダー」を登録してもらうというものだ。

コロナ対策リーダー、事業の流れ(出典:東京都)

コロナ対策リーダー、事業の流れ(出典:東京都)

 「飲食店の感染を抑えるためにも必要な取り組みじゃないか」と感じる方も多いかもしれないが、「リーダー」になったところで何かの権限を与えられるわけではない。マスク会食しない客に対して「私、コロナ対策リーダーなんで」とステッカーを見せびらかしても「だからなに?」とあしらわれるのが関の山だ。

 では、どんな効果があるのかというと、居酒屋側に責任感を押し付けて、自分から進んで客に「マスクをしてください」と注意するように仕向けることだ。実際、夕方のニュースを見ていたら、コロナ対策リーダーに登録したという居酒屋店主が「やる気が出てきました、命を預かっているという自覚がでた」と述べていた。

 ここまで言えばもうお分かりだろう、「コロナ対策リーダー」とはブラック企業でいうところの「名ばかり管理職」と同じなのだ。

 肩書きと責任を与えるだけで権限や見返りは一切与えない。そんな丸腰の個人を戦いの最前線に立たせて、難局を乗り切ろうという戦い方を日本の為政者はよく好む。「頑張れ」「今こそ一つに」と音頭を取ってさえいれば、根本的な対策やシステムの改革などに手をつけなくていい。つまり、個人に問題を丸投げすることで「現状維持」ができるのだ。

 実際、居酒屋の間からはこの制度について、「正直、仕組みに違和感がある。店舗ごとの取り組みでいいのではないか。国の対策としてしっかりやってくれたほうがいい。こういったもの一つ一つの負担が現場には重い」(TOKYO MX 3月22日)という疑問の声も少なくない。

日本人の根性が足りない

 コロナ禍になってから、日本社会は前にも増して「根性」や「気合い」が語られるようになった。

 欧米よりも感染者数が少ないのは、「日本人が自粛を頑張ったから」。逆に、ちょっとでも感染者が増えると「若者の気がゆるんでいる」。ワンチームで一生懸命取り組めばコロナはきっと撃退できる。そんな高校球児のようなムードがそこかしこに漂っているので、首相の演説も具体的な対策より、「全力で取り組みます」という気合をいかにアピールするかに終始している。

 日本人が追いつめられるほど精神主義に傾倒するのは、動かし難い歴史の教訓だ。そのうち、「GDPがちっとも成長しないのは、最近の日本人の根性が足りないからだ」とか言い出す日もそう遠くないのではないか。

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