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【話の肖像画】歌舞伎俳優・中村獅童(48)歌舞伎座で主役 特別な思い

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産経新聞

歌舞伎俳優の中村獅童(酒巻俊介撮影) 1/2枚  ■歌舞伎座で主役 特別な思い

 《昨年11月、古典歌舞伎「義経千本桜・四の切」で佐藤忠信(ただのぶ)と源九郎狐(げんくろうぎつね)を演じ、48歳にして初めて東京・歌舞伎座で古典の主役を勤めた》

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 コロナ禍で大変な時期にもかかわらず、無事に千穐楽(せんしゅうらく)を迎えられたことに特別な思いがあります。なんと言っても、以前お話しした通り、僕は19歳のときに、ある歌舞伎関係者から「歌舞伎座で主役をとるのは難しいと思いますよ」と言われていますからね。

 今回、主役を演じる上で、「平成中村座」の試演会(平成13年、東京・浅草)で、勘三郎の兄さん(五代目中村勘九郎でのちの十八代目勘三郎、24年死去)から教わったこと、パッションとか、破れかぶれになる気持ちとか思い出しましたね。試演会後に、勘三郎の兄さんが「きょうのお前は型とかじゃなくて、感情とか気持ちでやっていた。俺にはできないよ。俺は負けたね」とまで言ってくれたんです。

 ところが、また舞台稽古になると「ダメだね」「まずいね」「できないね」って。「うまくやろうとか、型をどうしようとかでやろうとしているんでしょう。型なんか、いいんだよ。君のいちばん良いところはハートを出せるところ。型とかを考えてハートを出せなかったら、良いところは一つもないよ」と言われました。当時の台本を久しぶりに開いたら、言われたこととか忘れないように全部書き留めてあるんですよね。勘三郎の兄さんから教わったのは、とにかくパッションとハート。本質的でいちばん大切な部分を教えてくださったと思います。教え方も感覚的で、パッションそのものでしたけれどね。

 実はこのとしになっても、夢の中で勘三郎の兄さんに「なにやっているんだよ」とすごく怒られて、ぱっと目が覚めるんです。勘三郎の兄さん、そして三津五郎の兄さん(十代目坂東三津五郎、27年死去)、團十郎の兄さん(十二代目市川團十郎、25年死去)の3人にはよく教わりました。お兄さんたちは今でも僕の中では生き続けていて、いまだに3人の声が聞こえてくるんです。

 昨年11月の公演のときは、楽日翌日に勘三郎の兄さんの墓前に報告に行きました。勘三郎の兄さんが僕の「四の切」の舞台を見ていたら何と言っただろう。「おまえさん、相変わらず下手だね。『四の切』なら負けないからね」なんて言っているんじゃないかな。なんだか想像するだけで恐怖だね。「ちっともうまくならないね」と怒られているのか、「やっと歌舞伎座で主役をやれるようになったね」とほめられているのか、全然わからない。

 歌舞伎はほかの演劇とは違って、一生かけて演じることができるんです。努力すれば50代の忠信、60代の忠信というのがあり、歌舞伎役者としての成長だけでなく、人としての成長とかを含めて、お客さまもそれを見続けてくれる。歌舞伎って本当、自分探しの旅だなと思えるんです。ゴールとか、結果とか、結論とかがなくて、最大のライバルは自分自身なんですよ。自分自身に勝てたか、負けたかは、自分が年老いてまもなく死ぬだろうなと感じたときにわかるのではないかと思っています。(聞き手 水沼啓子)

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  • 「義経千本桜・四の切」で源九郎狐を演じた=令和2年11月、東京・歌舞伎座(c)松竹

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