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【話の肖像画】歌舞伎俳優・中村獅童(48)母の遺志「あらしのよるに」

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産経新聞

大人気となった「あらしのよるに」 =平成27年9月、京都・南座(C)松竹 1/1枚  ■母の遺志「あらしのよるに」

 《平成27年9月、京都・南座で新作歌舞伎「あらしのよるに」が初演を迎えた。原作は絵本作家、きむらゆういちで、狼(おおかみ)のがぶと山羊(やぎ)のめいがある嵐の夜に出会い、友情を育む物語だ》

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 僕がこの絵本と出合ったのは15年で、NHKの「てれび絵本」で朗読を担当したことがきっかけです。初めて読んだときは本当、感動しました。歌舞伎にはそもそもファンタジーな要素を含む演目もあり、この「あらしのよるに」の世界観こそ、歌舞伎にぴったりだと思いましたね。母とも「これは歌舞伎になるね」なんて話をしていたんです。

 25年に母は心不全で亡くなりましたが、亡くなるだいぶ前に「これは獅童にぴったりだからやらせてほしい」と、歌舞伎版「あらしのよるに」の企画書を書いて松竹の方に渡していたそうです。それを知ったのは、南座での初演の直前でした。だからこの作品は母の遺作のようなものですし、母の遺志を継ぐという思いで狼のがぶを演じました。

 新作歌舞伎というと映像とか新しい技術を使うように思われがちですが、この作品は長唄や義太夫といった歌舞伎の音楽に、藤間勘十郎先生の振り付けによる舞踊と、とにかく古典歌舞伎の演技法や演出法にこだわって作られた作品です。風や雨の音の表現も歌舞伎ならではの見せ方をしています。デザイナーのひびのこづえさんに依頼した衣装のデザイン画を見て「化粧はこうしよう」なんて、出演者たちで相談しながら決めました。

 オオカミとヤギというのは本来、食べる側と食べられる側の関係ですよね。がぶがめいを食べたいという気持ちを抑えて、友情を優先させるところがこの作品の見どころです。新作歌舞伎にあまりなじみのない京都のお客さまも多いようでしたが、初日があけてすぐ高校生の団体のお客さまも入り、皆さん、手をたたいて大笑いしたり、涙を流したりしてくださった。初日から5日目には満員御礼札止めとなりました。それから何日も続けて札止め公演となり、千穐楽(せんしゅうらく)には立ち見のお客さまもいらっしゃったほどでした。

 《舞台は好評を博し、東京・歌舞伎座(28年12月)、福岡・博多座(30年11月)でも再演された》

 歌舞伎の公演は普通、未就学児童の入場はできないんですが、この作品は原作が絵本ということで、入場制限を4歳以上としたんです。子供のときの思い出になればうれしいですし、大人になってからも歌舞伎を見ようという気持ちになっていただけたら、この芝居を作ったかいがあります。「あらしのよるに」は今は新作歌舞伎ですが、100年、200年先も残れば古典歌舞伎になるわけですよね。

 息子の陽喜(はるき)(3)は「あらしのよるに」が大好きで、ぐずったときとか舞台の映像を見せると機嫌が直ってしまうんです。下の夏幹(なつき)は昨年6月に生まれたばかりだけれど、息子たちにはぜひ、「あらしのよるに」の生の舞台を見てもらいたい。2人が将来、がぶとめい役で共演してくれたらうれしいですよね。そしてこの作品が「萬屋(よろずや)」で代々受け継がれたら、と夢は広がります。(聞き手 水沼啓子)

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