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【話の肖像画】「世界の盗塁王」福本豊(73)こだわった究極のスパイク

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産経新聞

昭和58年6月、通算939盗塁の世界新記録(当時)を達成した=西武球場 1/1枚  ■こだわった究極のスパイク

 《20年間で積み重ねた1065盗塁。その足元には走力を最大限に生かす究極のスパイクがあった》

<< 下に続く >>

 スパイクにはこだわりました。初めて陸上競技の短距離走用シューズを履いたとき、「これは走りやすいなあ」と思って。ただ野球の場合は状況に応じていろんな動作が求められるから、軽すぎてもだめ。完全にフィットするスパイクが出来上がるまでに10年ぐらいかかったんちゃうかなあ。僕は普段履く靴のサイズは25センチやけど、スパイクは24・5センチ。両足のつま先を丸め、地面をしっかりとつかむ感じで履いていました。スパイクの裏の金具は3本。つま先の金具は通常のスパイクは先端から3センチぐらいのところにあるんですが、僕のは地面にひっかけやすいように1センチぐらいのところにつけてもらっていました。土踏まずの部分も両サイドが細くえぐれていて、これがきつい。土踏まずがめちゃくちゃ痛くなるんです。これを履いた大ちゃん(大石大二郎さん、元近鉄の内野手で盗塁王4回)が「(痛くて)履けませんわ」と言っていました。

 この特注スパイクは最初は履くと痛いんですが、木型を入れてある程度伸ばしてから履くと、なんともなくなる。スパイクは大きいのはだめなんです。走り方が変わってしまうから。少年野球を見ていたら、「ああ、あの子の靴は大きいな」と思うことがある。靴の中で足が遊ぶから、きれいにスタートが切れない。怒られるけど「お母さん、ごめん! 靴下汚れるけど、靴を脱がしてやればこの子はできるよ。うまくなれるのに靴が邪魔している」と言う。実際、靴を脱がすとできる。靴やスパイクは重要です。

 スパイクは1シーズンに最低20足は使いました。ただし履きつぶしたのは1足もない。験(げん)を担いで取り換えたりしていましたから。プロ12年目に出合ったのは、カンガルーの革を使った究極のスパイクでした。使っていたのは人間で言えば18歳ぐらいの若くてええときのカンガルーの革で、きめがものすごく細かい。カンガルーの革は牛革よりも薄くて軽くて強い。厚さも子牛なら1・2ミリぐらいでしたが、カンガルーは0・8ミリ。しかも強度を高めるために、革の密度が濃いメスのカンガルーと、こだわったものでした。今では当たり前のようだけど、当時、カンガルー革のスパイクを使っていたのは、僕ぐらいだったんちゃうかな。

 《故障しない頑丈な体も記録を支えた》

 故障なしで練習についていけたからええんやけど、高校のときからガンガン走ったり、練習したりして、なんか知らんうちに(体が)強くなっていた。体のメンテナンスについて、僕ほどええ加減なん、おらへん。僕は現役時代、トレーナーのマッサージも「こそばゆいからええわ」とか言って、ほとんど受けたことがないんです。たまに「足の裏側だけ踏んでくれ」と頼み、さらに太ももの裏側を1分くらい踏んでもらうだけ。日々の激しい練習で筋肉を鍛えているのに、マッサージでせっかくの張りを取ってしまうことになる。筋肉の張りを残したまま、次の日もその次の日も練習する。僕はそうしてだんだん強くしていった。試合後は熱い風呂に入りました。それで足のむくみも疲れも取って、張りは残す。自分なりの考えでしたけど、現役時代に肉離れは1回もありませんでしたね。(聞き手 嶋田知加子)

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