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【主張】福島事故10年 廃炉前進に国は全力挙げよ

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産経新聞

 ■脱炭素には原発が欠かせない

 人類が経験したことのない事故だった。東京電力福島第1原子力発電所が千年に一度の巨大津波に襲われて3基の炉心が溶融し、水素爆発で建屋が次々に吹き飛んだ。その映像は世界を震撼(しんかん)させた。セシウムなどの放射性物質は風に乗って内陸部や海に運ばれ、東日本に汚染を広げた。

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 悪夢の福島事故から10年の歳月が経過した。被災地の福島県などでは多くの人々の暮らしが一変したまま旧に復していない。原発事故は二度と起こしてはならない。原子力発電に対する国民の信頼は損なわれ、脱原発のうねりが起きた。その余波は日本政府のエネルギー安全保障をはじめ、地球温暖化問題への対応にも複雑に絡んで今もなお揺れ続けている。

 ≪停滞する全国の再稼働≫

 福島第1原発の廃炉作業は難航している。今年2月末に3号機の貯蔵プールから燃料の取り出しを終えたが、1、2号機では未回収のままである。

 炉心溶融を起こした1、2、3号機では燃料デブリの回収が待ち受ける。遠隔操作での試験的な着手は来年からだ。国と東電は2041~51年の廃炉完了を目標に掲げているが、工程の遅れが目立ち、実現はほぼ不可能だ。チェルノブイリ原発事故の先例に照らせば、廃炉計画の変更も覚悟しなければならない難事業である。

 廃炉の前進には約千基のタンクにたまった処理水の海洋放出が急がれる。トリチウムは無害なのだから国が前面に出て風評被害を抑えつつ実施するしか道はない。

 一方、3・11以前に54基あった国内の原発は各電力会社による廃止の判断が相次いで現在、33基に減った。再稼働したのは、このうち9基にすぎない。

 事故当時の民主党政権下で発足した原子力規制委員会の長期に及ぶ安全審査や、原発の運転年数を原則40年とした新ルールの導入による採算割れを電力会社が危惧した結果である。

 こうした状況に訴訟ラッシュが追い打ちをかけた。地裁、高裁での奇矯な決定で原発の運転が止まる事態が起きているのは残念だ。電力会社は経営計画が立てられず、「司法リスク」という言葉が生まれている。定年退職を控えた裁判長の法廷で原発が止められる傾向があることを最高裁は傍観してはなるまい。

 また第1原発の運転員の事故対応に関する朝日新聞の虚報も報道史上の汚点となった。

 ≪ブラックアウト教訓に≫

 原発停止による国富の流失も深刻だ。原発分を穴埋めする天然ガス火力発電の燃料輸入に推定で毎年2兆~3兆円が使われている。電気料金の上昇は家計や製造業の収支にのしかかる。さらには火力依存の弱点が今冬の寒波襲来で露呈した。天然ガスの輸入が減ったことで全国的な電力危機が続いたことを忘れてはならない。

 3年前の地震で起きた北海道のブラックアウト(全域停電)も道内の泊原発が動いていれば避けられたことだった。原発の不在リスクが顕在化しつつある。

 世界の政治経済は、温暖化防止の「パリ協定」の下、脱炭素へ加速中だ。菅義偉首相も「50年までの温室効果ガス(二酸化炭素)排出実質ゼロ」を国際社会に表明したが、再生可能エネルギーの増強だけでは実現不可能だ。

 国際動向に照らしてもエネルギーの脱炭素化は不可避だが、その現実解は、原発のベース電源復帰をおいて他にない。

 昨年11月には沸騰水型原発の東北電力女川原発2号機の再稼働に向けて地元同意が得られ、規制委によって60年運転が認められた関西電力高浜原発1、2号機と美浜3号機でも同様の動きが進んでいることを、原発氷河時代の雪解けとして歓迎したい。

 原子力発電のバックエンド・高レベル放射性廃棄物の地層処分地選定の第1段階に当たる文献調査も昨年11月から北海道の2町村で始まっている。

 ともに原子力を「心柱」とする日本のエネルギー多様性の再構築に向けた確かな足取りだ。

 米国では原発の80年運転が米原子力規制委員会(NRC)によって認められるなど積極利用の動きが顕著になっている。

 日本の規制委は、原発の長期停止や新増設の停滞で、技術継承に支障を来すことがないよう留意すべきだ。国家行政の一組織であることを忘れられては困る。

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