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【話の肖像画】「世界の盗塁王」福本豊(73) 8ミリが捉えたおいしい証拠

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産経新聞

代名詞となった「斜め45度の前傾姿勢」=昭和59年4月ごろ 1/1枚  ■8ミリが捉えたおいしい証拠

 《主力外野手のけがで出場機会が増えた2年目、シーズン75盗塁で初めて最多盗塁のタイトルを獲得した。その年のオフ、初タイトルのお祝いにもらったプレゼントが、その後の飛躍のきっかけとなった》

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 入団当初から「いいスタートが切れるように集中しとけ」と言われていましたが、投手の癖まではなかなか分かりませんでした。(昭和45年の)プロ2年目に最多盗塁のタイトルを取ったお祝いに、親戚が8ミリカメラをくれたんです。友達に頼んでその8ミリでプレーするところを、一塁側スタンドから撮ってもらった。西宮球場はガラガラやったもんね。撮影して現像したものがあったら、将来、子供ができたとき、お父ちゃんは野球していたという証拠が残るからなあ、なんて言っとって、撮ってもらっていたんです。

 僕が一塁走者として出塁したときに撮ってもらったんですが、リードする僕と相手投手が一直線上にフィルムに収まっている。鈴木(啓示さん)が投げていた近鉄戦の映像をたまたま見ていたとき、「ん? え? ちょっとなんかちゃうな」と気づいた。映写機がたまたまなんかの拍子で少し早送りになっていたんで、今度は普通の速度に戻してみると、捕手への投球と牽制(けんせい)のときのモーションに、微妙な違いがあったんです。セットポジションから投球動作に移る前に顔を上下させているのが分かった。あごが下がれば牽制球。実際に試合で見たら、むちゃくちゃよく分かった。これはおいしいわ、と。面白いもんやから、他の投手も繰り返し見る。違いを探したらええんやなと分かった。見ていたらだんだん分かるようになった。間違い探しみたいなもんや。主力投手にはだいたい癖がありましたね。

 同期入団のトンビ(東尾修さん、西武)は簡単やった。左肩がポイントで、ホーム方向へすっと動くと牽制でした。106盗塁をマークした47年のオフ、トンビとは同じ(スポーツ用品メーカーの)ミズノのアドバイザリーだったこともあって、スタッフ会議のときに会ったんです。そしたら「(癖を)教えてくれ、教えてくれ」と言ってくる。もう邪魔くさいから「ほなら教えたるわ」と癖を教えたんです。そしたらすぐに対応されて、何度か牽制で刺されました。そこはやっぱり大エースやったね。

 リーグは違うけど、一番走りにくかったのはホリ(堀内恒夫さん、巨人)。投球リズムやタイミングが1球ごとに違う。研究したけど、日本シリーズでほとんど走れんかった。

 《“走”の師匠となったのは浅井浄(きよし)トレーニングコーチだ。陸上短距離の走り方を学び、後に代名詞となる「斜め45度の前傾姿勢」が生まれた》

 浅井さんは1964年東京五輪の陸上男子400メートルリレーの代表でした。僕はそれまで我流で腕が横ぶりになって走っていたんで、体は揺れるしスピードも出ない。両肘が横ぶれせず、腕をまっすぐ垂直に振る走り方を教えてくれました。左足で踏み出して、あごを引いて頭を揺らさない。低い前傾姿勢を保ったままスタートを切る。何度も繰り返し練習させられて、スピードを緩めずにスライディングもできるようになった。本物のプロの走りに変えてもらいました。(聞き手 嶋田知加子)

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