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【話の肖像画】歌舞伎俳優・中村鴈治郎(61)(6)お客さまと一体の高揚感

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産経新聞

中村鴈治郎さん(安元雄太撮影) 1/1枚  《コロナ禍でお客さんの大切さを痛感する》

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 お客さまの前で演じると、助けられる、という言い方は語弊がありますが、相乗効果というのでしょうか、盛り上がり方が違うんですね。しかも関西の舞台はすごいんです。

 たとえば、立ち回りで、後ろから敵に斬られそうになると、お客さまから「後ろ!」「あぶない!」って声がかかることがある。ご自分がもうそのお芝居に入り込んでしまうんでしょうね。「棒しばり」のような喜劇的な作品はものすごく受ける。そうすると、演じているこっちもうれしくなって、もっと突っ込んで演じたりもする。心中ものでも、熱気というか、入り込んでいる感がとにかくすごいんですよ。

 《鴈治郎さんは昨年6月1日、久しぶりに観客を前にした舞台に立ち、9月には大阪城公園内のクールジャパンパーク大阪TTホールの「歌舞伎特別公演」に出演した。大阪府、大阪市、大阪商工会議所など官民一体となって開催された「大阪文化芸術フェス」のオープニングを飾るもので、鴈治郎さんのほか、片岡愛之助さん、市川右團次(うだんじ)さんらが出演。歌舞伎を待ちかねたファンでチケットはほぼ完売となった》

 TTホールの舞台に立ったときはうれしかったですね。また歌舞伎をお客さまの前でできる、そんな喜びと緊張で足が震えました。こんな気持ち、何十年ぶりでした。息子の(中村)壱太郎(かずたろう)と共演した「京人形」の舞台など、自分でせりふがどこに行っているのか、分からなくなったほどでした。いい経験をさせてもらいました。この感覚を、自分は絶対忘れたらあかんと思いましたね。

 関西をはじめ地方はどうしても歌舞伎の再開は遅くなる傾向にあると思うんです。俳優のほとんどは東京に住んでいます。コロナでは移動に伴うリスクがありますし、宿泊や外食の問題もありますから。昨年12月の京都・南座の顔見世(かおみせ)もできるのかなあと思っていましたので、無事に開催できて本当にうれしかったですね。

 《昨年の南座の顔見世は、期間を通常の約1カ月から2週間に短縮して開催。公演形態も、昼の部、夜の部の2部制から、各部2演目ずつの3部制に変更された。鴈治郎さんは弟の(中村)扇雀さんらと「傾城反魂香(けいせいはんごんこう)・土佐将監閑居(とさのしょうげんかんきょ)の場」に出演した》

 吃音(きつおん)の絵師、又平と、女房おとくの夫婦愛と芸術の奇跡の物語です。この作品にしたのは私の思いもありました。まず、兄弟でできるもの、ドラマがあって、最後はハッピーエンドで終わるものをやりたいと思ったのです。こんなご時世、お客さまに少しでもいい気持ちになってもらいたかった。実はこの作品の演出には、吃音が治るやり方と治らないやり方があるのですが、今回は治る方で演じました。それもお客さまに気持ちが明るくなっていただきたかったからです。

 顔見世というと、思い出すのは子供の頃です。当時、うちは祖父の二代目鴈治郎と父(坂田藤十郎=当時、二代目中村扇雀)が「廓文章(くるわぶんしょう)」など上方のお芝居を上演していましたが、夜の部の最後が多かったですね。子供が起きていられないぐらい遅い時間帯でした。それでもお客さまが残っていてくださった。ありがたかったですね。(聞き手 亀岡典子)

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