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【話の肖像画】歌舞伎俳優・中村鴈治郎(61)(5) コロナ禍で模索、生まれた演目

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産経新聞

ソーシャルディスタンスを意識した新作「棒しばり×棒しばり」の一場面。茂山逸平さん(右)と =令和2年6月1日、大阪市中央区の山本能楽堂 (安元雄太撮影) 1/1枚  ■コロナ禍で模索、生まれた演目

 《昨年から続く新型コロナウイルスの影響は、エンターテインメント界も直撃した。歌舞伎も例外ではない。昨年3月以降、全国で多くの舞台が中止、延期となった。そんななか、関西でいち早く動き出したのが、鴈治郎さんだった》

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 私たち舞台人に何ができるのだろうと、いろいろ考えさせられました。息子の(中村)壱太郎(かずたろう)なんかは積極的にネットで動画を配信している。それはそれでいいことだと思います。今まで歌舞伎を見たことのない若い世代に発信できますから。でも、私は新しい生活様式ということがいわれるなか、どういう公演形態なら舞台ができるのだろう、まずは何かやってみるべきだ、と考えたのです。

 そこで、昔からよく知っている同い年の関西の劇作家、演出家のわかぎゑふさんと話し合って、昨年6月1日、大阪の山本能楽堂で、お客さまを入れて公演を開催しました。もちろん、客席は収容人数の4分の1の60人。検温、マスク、消毒など感染予防も徹底しましたし、舞台上も、密を避ける演目や演出にしました。

 《ふたりとも「亥年」ということもあり、ユニット名は「亥々会(いいかい)」。公演のタイトルは「息吹の寿(ことほ)ぎ」。ふたりが直接声をかけ、狂言の茂山七五三(しめ)さん、茂山逸平さん、文楽の豊竹呂太夫(ろだゆう)さん、落語の桂吉弥さんら、関西の各ジャンルのそうそうたるメンバーが集まった》

 電話をしたら、「やる、やる」いうて、みなさん、参加してくださった。その距離感の近さも関西の良さじゃないですか。この公演の中で私と逸平ちゃんは、新作「棒しばり×棒しばり」を上演しました。後日、撮影用に再演して今年1月1日にNHKで放送してくれたんです。その際、上方舞山村流宗家の山村友五郎(ともごろう)さんにお電話してお稽古場を貸していただいたんですが、その様子を見ていたNHKの方が「はあ、関西は横のつながりが強いんですね」と驚いていましたね。

 《「棒しばり×棒しばり」は、狂言や歌舞伎の人気演目「棒しばり」をもとに、わかぎさんが脚本を書きおろした新作。主人に酒を飲むことを禁じられ、それぞれ手を長い棒に縛られた太郎冠者と次郎冠者が知恵を出し合って酒を飲むという話。劇中、消毒液を「しゅっ、しゅっ」と言いながら互いの手に吹きかける場面もあり、場内はマスクの下で笑いが広がった》

 実は、あの作品にはヒントがあったんですよ。外出自粛期間中、テレビを見ていたら、海外のどこかの町で、テラスで食事をしている風景が映ったんです。みんな、小さな傘を頭につけているんですね。近づこうとしても傘が邪魔になって近づけない。ソーシャルディスタンスが保たれているんです。「あ、これだ!」とひらめきました。もともとの狂言や歌舞伎の「棒しばり」は、ひとりが棒に縛られ、もうひとりは後ろ手にくくられているんです。それをふたりとも長い棒に縛られる設定に変えたら、棒が邪魔でそれ以上近づけない。コロナ禍の時代を反映できると思いました。

 公演自体、ひょっとしたらクレームがくるかもしれないと思っていました。でも、なかったですね。「やればできるんだ」。勢いでやった公演ですけど、そんな熱い思いがわいてきました。(聞き手 亀岡典子)

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