南北戦争以来の深刻な分断を反映 バイデン氏演説、識者はどうみる

 米ワシントンの連邦議会議事堂で20日、バイデン大統領の就任式が開かれた。就任式でバイデン氏が行った演説などについて米国政治に詳しい識者2人に話を聞いた。(外信部 坂本一之)

 ■コロナ死者黙祷(もくとう)にバイデン氏らしさ

 明大 海野素央教授 

 バイデン米大統領は就任式の演説冒頭で、米国が最も大切にしている「民主主義」が勝利したと訴えた。

 トランプ前大統領らが大統領選で不正があったと主張するなど、脅威にさらされた民主主義が守られたことを強調した。連邦議会議事堂の襲撃事件を指摘し、トランプ氏の支持基盤につながる過激主義や白人至上主義を打ち破るとも語り、トランプイズム(トランプ主義)を完全否定した。

 演説で同氏の名前は出さなかったものの、「暗黒の時代」と批判してきたトランプ政権が終わり、前に進む固い意志が見られた。

 そして新型コロナウイルスや人種差別問題などを乗り越えるためには「結束」が必要だと何度も呼びかけた。自らの力で解決を図るトランプ氏と異なり、国民に「一緒に結束して乗り越えよう」というアプローチだ。結束に関しては同盟国や国際社会における協力の意味もあるのではないか。

 異例だったのは新型コロナで亡くなった国民に黙祷をささげたことだ。死者へ敬意や共感を示し、バイデン氏の人間性が出た部分といえる。社会が分断した現在の米国に求められているリーダーシップだ。

 就任式後に署名した地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」復帰への手続きなどは国際協調の第一歩だが、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の復帰には慎重ではないか。就任後100日間は新型コロナ対策を最優先にしてワクチン接種の実施に時間とエネルギーを費やすだろう。

 ■南北戦争以来の深刻な社会分断を反映 

 住友商事グローバルリサーチ 足立正彦シニアアナリスト 

 バイデン米大統領が就任式の演説で、南北戦争に立ち向かった第16代大統領リンカーンについて語ったことは、現在の米国が国家存立の危機となった南北戦争以来の深刻な社会の分断を抱えていることを反映しているのではないか。

 連邦議会議事堂襲撃事件などによって民主主義の脆弱(ぜいじゃく)性が露呈する中、バイデン氏は結束と対話を前面に打ち出した。米国の民主主義や理念に立ち返った演説で、異例だったトランプ前政権を考慮すると当然のことが新鮮に映った。

 大統領選で自身に投票しなかった有権者を含め「全ての米国民の大統領になる」と語り、トランプ前大統領や共和党の支持者に対する融和姿勢も強調した。

 ただ、米メディアの世論調査によると、共和党支持者の9割以上が今後4年間も社会は分断したままだと考えており、米国の現在の分断状況を克服するのは極めて困難だ。

 演説では新型コロナウイルス危機に打ち勝つ重要性を訴えた。上下両院の勢力は歴史的にみて民主党と共和党で拮抗(きっこう)しており、バイデン氏が発表した1兆9千億ドル(約200兆円)規模の新型コロナ対策を議会で妥協しながら成立させることが大事だ。同対策で失敗すれば、経済再建が難しくなり、バイデン政権にとって大きな痛手となる。

 就任式にはペンス前副大統領や上院共和党トップのマコネル氏らが同席した。欠席したトランプ氏と共和党指導部の関係の乖離(かいり)が浮き彫りになったという印象だ。

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