英の離脱修正法案にEU猛反発 FTA交渉決裂の恐れ

 【ロンドン=板東和正】欧州連合(EU)を離脱した英国とEUとの自由貿易協定(FTA)の交渉期限が来月に迫る中、ジョンソン英政権が発効済みのEU離脱協定の内容変更を可能とする法案を議会に提出し、EU側の猛反発を招いている。英EU間の対立激化で交渉決裂の可能性が高まり、欧州経済が新型コロナウイルスを超える打撃を受けるとの懸念が浮上している。

 「英国の政治・経済の一体性を守るため不可欠だ」

 ジョンソン首相は14日、英議会下院で法案への支持を呼びかけた。下院は同日、賛成多数で法案の基本方針を可決。月内の本採決で下院を通過すれば、上院での承認後、女王の裁可を経て成立する見通しだ。

 英EUが昨年合意した離脱協定では、英領北アイルランドとEU加盟国のアイルランドとの国境管理を復活させないため、英領北アイルランドの関税手続きは当面、英本土との境界でEU規則に従うことが明記された。だが、ジョンソン政権は9日に提出した法案で、英EUのFTA交渉が決裂した場合、北アイルランド・英本土間の関税手続きはEU規則ではなく、英国自身が決めるとした。

 FTA交渉が決裂した場合、同じ英国内で異なる関税が生じることを避けるためで、ジョンソン氏は、法案を交渉決裂に備えた「保険だ」と主張。「英国を分裂させてはならない」と訴える。

 だが、EU欧州委員会は、離脱時の協定を破ろうとするジョンソン氏に「重大な国際法違反」と反発し、法案を9月中に撤回するよう要求。EUのフォンデアライエン欧州委員長は16日の演説で、故サッチャー元英首相の「英国は条約を破らない」との発言を引用してジョンソン氏に再考を迫った。EUは欧州経済に悪影響を及ぼすFTA交渉の決裂は極力、避けたい考えだが、法案が撤回されない限り交渉は長期化するとの見方を示している。

 英EU双方はFTAの合意期限を10月15日のEU首脳会議に設定、9月下旬の協議が最後の交渉機会になる可能性が高い。だが、企業の公正な競争条件の確保や英周辺海域の漁業権をめぐりもともとあった両者の溝は、法案提出を受けてEU側が態度を硬化させたことで、さらに広まったとみられている。

 FTA交渉が決裂すれば、英EU間の貿易には世界貿易機関(WTO)の規則に従い関税が発生する。自動車の輸出に頼るドイツなどの経済が打撃を被る可能性が高く、欧州自動車工業会(ACEA)などは、FTAなしでは2025年までに約1100億ユーロ(約13兆円)の損失が生じると予測。米金融大手ゴールドマン・サックスの分析家は交渉決裂が欧州経済に与える影響は「新型コロナより大きくなる可能性が高い」と分析している。

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