「敵の敵は味方」の論理で進むアラブ構造変換 中川浩一・三菱総合研究所主席研究員(元アラビスト外交官)

 アラブ首長国連邦(UAE)とバーレーンが相次いでイスラエルとの国交正常化に合意したことは、アラブ世界の構造的変換を象徴するものだといえる。

 かつてアラブでは、エジプトやイラク、シリアといった人口規模が比較的大きく、歴史的にも地域の中心だった国々が主導権を握っていた。しかし、イラク戦争(2003年)やアラブの春(11年)を経て、これらの国々は政治的影響力を失った。

 その一方でサウジアラビアやUAEやカタールといった湾岸産油国が政治面でも台頭し、「脱石油」時代をも見据えた改革を進めている。先端技術を有するイスラエルと結びつくのは時代の潮流であり、この流れは今後も続くだろう。中東は「政治」から「経済」の時代に移ったともいえる。

 イスラエルにとり、すでに平和条約を結んでいるエジプトとヨルダンは、和平のパートナーではあっても経済的な利点は少なかった。それに比べ、産油国であり、金融ハブでもあるUAEやバーレーンと国交を結ぶことは、圧倒的にメリットが大きい。中東政治に占めるパレスチナ問題の位置づけを一層低下させた点でも、今回の合意はネタニヤフ政権にとっての外交的な勝利だ。

 他方、パレスチナ問題を完全に置き去りにした今回の一連の合意を自画自賛するトランプ米政権の姿勢は、米国の中東における地位をさらに不安定化、不確実化させる可能性がある。半面、パレスチナに対し、アラブ諸国を頼るのではなくイスラエルとの直接交渉が(和平への)唯一の手段だと認識させるきっかけとなるかもしれない。

 中東政治の構図としては、米国の中東関与の低減や、「アラブの春」によって起きたイランの勢力拡大というパワーバランスの変化、さらにはトランプ政権の過度なイラン敵視政策によって、「敵の敵は味方」の論理が働いているといえる。イスラエルとアラブ諸国は、もはや互いが最大の脅威ではなくなり、イランこそが共通の敵となった。今回の合意達成はそれが表れたものだ。(取材・構成 大内清)

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