【外信コラム】北朝鮮拉致問題 取材の壁

 北朝鮮で拘束され、2018年の米朝首脳会談に先立って解放された米国人博士が「北朝鮮で留め置かれた複数の日本人と会った。多くが拉致されたとみている」と証言したことを最近報じた。今回の取材・報道では、2つの壁があった。

 一つは新型コロナウイルスだ。博士には今年1月、ソウルで数回インタビューしたが、2月以降、韓国での集団感染が世界的なニュースとなった。コロナ関連の取材に駆け回るうち、博士が暮らす米国で感染が拡大し、取材作業は何度も中断を余儀なくされた。

 もう一つは拉致問題をめぐる固定観念の壁だ。博士によると、会った日本人の多くが「だまされて北朝鮮に来た」と訴えたという。

 だまされて渡った人たちを、中学生の頃に力ずくで連れ去られた横田めぐみさんらのように拉致被害者とみなせるのか-という声を複数聞いた。誘いに乗って自分の足で行ったなら自業自得ではないかとの突き放した見方が言外ににじむ。

 博士は「どういう経路で連れ出されたとしても自由を奪われた日本人がいることに違いはない」「自分の家族ならどうする」と強調した。最愛の家族が失踪した裏に、言葉巧みで卑劣な誘い出しがあったとすれば-とわがこととして想像してみる。拉致問題解決は思い込みとの戦いだとも感じた。(桜井紀雄「ソウルからヨボセヨ」)

アクセスランキング

もっと見る

ピックアップ