米中の対立激化が北朝鮮を動かす!? 安倍政権はまず対中戦略を…その先に拉致問題の新たな展開

【ニュースの核心】

 北朝鮮に拉致された横田めぐみさん=失踪当時(13)=の父で、拉致被害者家族会の初代代表である横田滋さんが5日、老衰のため死去した。87歳だった。42年もの間、再会を待ちわびた末に倒れた胸中は、いかばかりだったか。心から、ご冥福をお祈りしたい。

 安倍晋三首相は「断腸の思いであり、本当に申し訳ない思いでいっぱいだ」と語った。左派勢力の一部には「安倍首相は何もしていない」とか「拉致問題を政治利用した」などという声もあるが、言いがかりに近い。何があっても政権批判に結びつける態度は北朝鮮を利するだけで、問題解決には役立たない。

 安倍政権の対北戦略は、ドナルド・トランプ米政権の戦略と密接不可分に結びついていた。私の理解を一言で言えば、両国とも「圧力と対話」である。どういうことか。

 トランプ政権は軍事力の威嚇によって、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長を対話に引っ張り出そうとした。戦略の有効性と正しさは、2018年6月にトランプ氏と正恩氏によるシンガポール首脳会談が実現したことで証明されている。

 安倍首相が、正恩氏に直接会談を呼びかけることが可能になったのも、シンガポール会談が実現したからだ。

 直接会談の呼びかけも日米が共有した戦略に基づいていた。「北朝鮮が核を手放す決断をすれば、見返りに日本が経済協力をする。ただし、それには拉致問題の解決が絶対条件」というシナリオだ。この作戦は米朝会談までは順調に進んだ。

 だが、日朝会談から先が思ったように進展しなかった。それはなぜか。

 最大の理由は、中国が北朝鮮の強腰姿勢を後押ししたからである。正恩氏はシンガポール会談前後に、計4回も中国の習近平国家主席と会談している。全容は明らかになっていないが、習氏が水面下で北朝鮮への経済支援を約束していたのは間違いない。

 習氏は貿易問題で攻勢を強めていた米国の圧力をはね返すためにも、「対米交渉の切り札」として正恩氏を利用していた。日米の連携に対して、北朝鮮と中国も事実上、連携して対抗したのである。

 以上の経験から明らかになったのは「北朝鮮を動かすには中国を動かさなくてはならない」という教訓である。いくら北朝鮮を経済制裁で締め上げても、陸続きの中国が支援物資を送り続ければ、北朝鮮は生き延びてしまう。つまり制裁は効かない。

 だが、いま全体環境は大きく変わりつつある。

 トランプ政権の対北交渉が暗礁に乗り上げたところへ、新型コロナウイルス問題が起きた。さらに香港問題も加わって、米中関係はこれまでになく緊張が高まっている。

 米中の対立激化は、北朝鮮を動かすうえでプラスだろう。なぜなら、中国が孤立化すればするほど、北朝鮮を支援する力が削がれる。自国の利益を守るだけで手一杯になって、北朝鮮どころではなくなるからだ。

 安倍政権はまず、対中戦略を練り直す必要がある。その先に拉致問題の新たな展開が見えてくるはずだ。

■長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ) ジャーナリスト。1953年、千葉県生まれ。慶大経済卒、ジョンズホプキンス大学大学院(SAIS)修了。政治や経済、外交・安全保障の問題について、独自情報に基づく解説に定評がある。政府の規制改革会議委員などの公職も務めた。著書『日本国の正体 政治家・官僚・メディア-本当の権力者は誰か』(講談社)で山本七平賞受賞。ユーチューブで「長谷川幸洋と高橋洋一のNEWSチャンネル」配信中。

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