デモ参加者弾圧で政権批判 ロシア社会に広がる異変

【モスクワ=小野田雄一】多数の拘束者が出たモスクワ市議会選の抗議デモに関連し、ロシア社会に異変が起きている。聖職者や教師、研究者など幅広い同業者グループが、政権側に対して拘束者の刑事裁判の中止や釈放を求める請願を相次いで公表したのだ。政権側の決定に無批判的とされてきた露社会で起きたこの現象を、専門家は「国民が公正さを求め始めた」と分析。ただ、露政権側が権威主義的体質を見直す可能性は低いとみられている。

 一連の請願の引き金となったのは、デモ警戒中の警察官への暴行罪で起訴された俳優、パベル・ウスチノフ被告(23)の事件だ。弁護側は「現場近くで人を待っていただけだ。暴行をしていない証拠の動画もある」と主張した。しかし裁判所は9月16日、動画を証拠採用せず、禁錮3年6月の実刑を下した。

 この判決に対し、ロシア正教会の司祭約200人が17日、判決の見直しや他の被告の釈放を求める請願をインターネット上で公表。露正教会はプーチン政権との関係が深く、複数の露メディアは「ロシア史上初の異例の動きだ」と伝えた。

 同時期には教師グループ3500人も「現在の状況では生徒に正しさとは何かを教えられない」とし、公正な裁判や法執行を求める請願を公表。心理学者や科学者、医師、出版関係者、報道関係者らのグループも同様の請願を行っている。

 ウスチノフ氏をめぐっては、拘束直後から10万人分以上の釈放を求める署名がネット上で集まっていた。

 ロシアでは近年、ネットや言論統制の強化、住民の意向を無視した行政決定、治安機関の権限強化など政権側の権威主義的体質に不満が高まっている。今回の一連の請願も、こうした機運の表れとみられる。

 判決への批判が強まる中、政権側は態度を変化させた。治安機関「国家親衛隊」のゾロトフ隊長や、露政権与党「統一ロシア」のトゥルチャク総評議会書記らが判決を見直すべきだとの見解を表明。30日に開かれた控訴審で、ウスチノフ氏は禁錮1年(執行猶予2年)に減刑された。反発を恐れた政権側の意向が判決に反映されたのは確実だ。

 露経済紙ベドモスチは「ソ連崩壊後、国民は社会の運営を権力者の恣意(しい)に任せてきたが、万人に公平な社会システムがより望ましいと理解しはじめた」とする政治学者、マカルキン氏の見解を紹介。一方で「政権側が権威主義体質を根本的に改めることはないだろう。それが現政権の権力基盤だからだ」とする社会評論家、クリーシン氏の見方も伝えている。

 9月8日に行われたモスクワ市議会選では、政権側が反体制派の立候補を妨害した疑惑が浮上。計10万人以上が抗議デモに参加し、2千人以上が拘束された。一部の拘束者は警察官への暴行罪などで起訴された。

アクセスランキング

もっと見る

ピックアップ