金正男氏、殺害前に亡命政府首班の打診断る「静かに暮らしたい」 関係者が証言

 【ソウル=桜井紀雄】北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の異母兄で2017年にマレーシアで殺害された金正男(キム・ジョンナム)氏が生前、正恩体制に替わる亡命政府の首班を打診され、「静かに暮らしたい」と断っていたことが15日分かった。打診したのは、正恩体制打倒を目指す組織「自由朝鮮」のリーダー格で、正男氏の息子の金ハンソル氏らの保護や在スペイン北朝鮮大使館襲撃を実行したという人物。ハンソル氏については「米ワシントン郊外で暮らしている」と説明したという。

 この人物は、大使館襲撃でスペイン当局が国際手配しているメキシコ国籍で韓国系のアドリアン・ホン・チャン容疑者(35)。北朝鮮の民主化や脱北者支援活動をともにした経験のある韓国の脱北者団体「北朝鮮人権団体総連合」の朴相学(パク・サンハク)常任代表が、ホン・チャン容疑者から直接経緯を聞いたとして産経新聞の取材に明らかにした。

 ホン・チャン容疑者は米国で北朝鮮の人権問題に取り組む市民団体代表として活動していた08年ごろ、北朝鮮から韓国に亡命した黄長●(=火へんに華)(ファン・ジャンヨプ)元朝鮮労働党書記に朴氏と3人で会った際、亡命政府の「主席に就くよう」要請したが、強く拒まれた。それから約6年後には、正男氏にも直接会って亡命政府の「首班になるよう」打診したが、「そんなことはやらない」と断られたと朴氏に説明した。

 北朝鮮で金日成(キム・イルソン)主席の息子や孫は「白頭(ペクトゥ)の血統」として神聖視されていることから脱北者らの結束の柱に据えようとしたとみられる。正男氏は、西側情報機関の要員らしき人物との接触を北朝鮮当局に捕捉されたことが殺害要因の一つになったと指摘されている。

 殺害事件翌月の17年3月には「自由朝鮮」の前身組織「千里馬民防衛」がホームページでハンソル氏のビデオメッセージを公開し、正男氏の家族を中国・マカオから安全な場所に移したと表明した。

 朴氏は昨年6月に米当局の招請による講演のために訪米した際、ホン・チャン容疑者に声を掛けられた。容疑者は、ハンソル氏について「彼の母と妹と一緒にシンガポールとオランダを経由して連れてきた。私が最初から最後まで付き添った」と説明。「ワシントンから最も近い州に暮らしている」ともし、4、5日あれば会えるとも告げられたが、日程が合わずに面会は実現しなかったという。

 ハンソル氏は朝鮮語が流暢(りゅうちょう)でなく、主に英語でやり取り。米連邦捜査局(FBI)の保護下で暮らし、ひそかに米大学に通っているとも聞いたとしている。

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 自由朝鮮 北朝鮮の金正恩体制打倒を掲げる反体制派組織。3月1日、ホームページ上で「臨時政府」の樹立を宣言した。2月の在スペイン北朝鮮大使館襲撃事件への関与を認めており、米当局は実行グループの1人を逮捕した。以前は「千里馬民防衛」を名乗り、正恩氏の異母兄、金正男氏が2017年に殺害された直後には、息子のハンソル氏の動画を投稿。ハンソル氏ら家族を安全な場所に移したと表明した。

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