謎残し迷宮入り 金正男氏殺害事件は「北朝鮮の勝利」か

 【シンガポール=森浩】金正男氏殺害事件の公判廷では新事実はほとんど明らかにならず、事件の動機や北朝鮮指導部の関与は解明されなかった。未解明となった原因は、指示役の北朝鮮国籍4人が事件当日に帰国して追及を免れたことだ。米露首脳と会談を重ねるなど金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が国際社会で露出を増やす中、その暗部ともいえる事件は謎を抱えたまま迷宮入りしようとしている。

 2017年10月から始まった法廷で裁判官は、実行犯として起訴されたシティ・アイシャさんとドアン・ティ・フオン元受刑者について、「計画された陰謀に従事していたと推論するのに十分な証拠がある」と認定。北朝鮮籍の4人については事件当日に殺害現場となった空港にいたことなどから、「傍観者ではあり得ない」と断じた。

 捜査員の証言から正男氏は殺害される直前の17年2月9日、マレーシア北部ランカウイ島で韓国系米国人と接触していたことが判明し、何らかの情報を渡していた可能性があるが、事件との関連は不明だ。

 ただ、法廷は真相究明の場にはほど遠い中身となった。フオン元受刑者らへの本格的な被告人質問は行われず、身柄の釈放や刑の軽減が行われた。マレーシア政府が、インドネシアやベトナムからのフオン元受刑者らの身柄解放要請に配慮したためとみられる。マレーシアの司法長官はアイシャさん釈放に際してインドネシア側に「両国の良好な関係」を考慮したことを伝えたことも判明した。真相究明より貸しを作ることを重視した格好だ。

 また、北朝鮮とマレーシアは事件直後こそ対立したが、マハティール首相は今年2月、歴史的な友好関係を重視して両国間の交流の再開を目指すことを表明した。今後も北朝鮮に帰国した4人の聴取や訴追は期待できず、真相追及の作業は困難な見通しだ。

 豪シンクタンク、ローウィー研究所のフィオナ・ブルーム研究員は裁判の結果は「北朝鮮の勝利」と表現する。米タフツ大のリー・スンユン教授は「北朝鮮を勇気づけ、批判者を恐怖に陥れるだろう」と指摘し、今後、北朝鮮による工作活動が活発となり、金正恩指導部が正男氏の家族を標的にする可能性を予測した。

 日本人拉致事件と同様、北朝鮮工作員の海外での犯罪が明らかになった今回の事件。真相究明を果たせなかった影響は大きそうだ。

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