「寛容なイスラム大国」の行方 インドネシア大統領選

 【ジャカルタ=森浩】任期満了に伴うインドネシア大統領選は17日、投開票される。現職のジョコ氏(57)と野党党首で元陸軍特殊部隊司令官のプラボウォ氏(67)の一騎打ちの構図だ。世論調査ではジョコ氏がリードするが、プラボウォ氏が追走し、その差は縮まっている。鍵を握るのはイスラム保守層。国民の9割がイスラム教徒ながら「他の宗教に寛容」とされるインドネシア。国是である「多様性の中の統一」は岐路に立たされている。

 ジャカルタ市中心部にあるイスラム教の礼拝施設「イスティクラル・モスク」。東南アジア最大級のモスクだが、東隣りにはキリスト教のジャカルタ大聖堂がある。「この並びはインドネシアが宗教に寛容であることの象徴だ」と話すのは、モスクで礼拝を終えたイスラム教徒の男性、トノさん(50)だ。トノさんは穏健派のジョコ氏を支持しており、「インドネシア社会の寛大さが今後も維持されるのか心配している」と続けた。

 近年、インドネシアはイスラム保守層が伸長する。キリスト教徒であるジャカルタ州知事の発言が「イスラム教を侮辱した」として大規模な抗議デモに発展し、2017年の選挙で敗北に追い込まれた。キリスト教教会を標的にしたテロも立て続けに起きた。

 「貧富の格差が拡大して社会に不公平感が増す中、不安や不満の受け皿として厳格な信仰が浮上しているといえる」と話すのは地元意識調査団体のブルハヌディン・ムフタディ氏だ。

 ジョコ氏は貧困層からのたたき上げという“庶民派”という評価の一方、他宗教に融和的な姿勢から「反イスラム」と批判され続ける。「ジョコが大統領になれば同性婚が認められる」。選挙期間中、こんなフェイク(偽)ニュースが飛び交った。世俗的なジョコ氏についてイスラム保守層の危機感をあおる噂だ。

 ジョコ氏は国内最大のイスラム系団体「ウラマー評議会」重鎮のマアルフ氏を副大統領候補として起用。「反イスラム」というイメージの払拭に躍起だ。

 対するプラボウォ氏はイスラム保守系の団体から支持を受ける。外国の影響力を減らして自国産業の強化を呼びかけるなど、「強い指導者」としてのイメージ作りに邁(まい)進(しん)する。

 プラボウォ氏支持だという女性、ハナさん(23)は最近、女性が頭髪を隠すヒジャブ(スカーフ)を着けるようになったという。「イスラム教徒としての誇りを大切したいし、プラボウォ氏もそういう候補だと思う」と話した。

 ムフタディ氏は「もし選挙でジョコ氏が勝っても保守的なイスラム勢力は政権攻撃を継続するだろう」と警戒。大統領選が社会の分断の増幅につながらないか懸念している。

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