大関・貴景勝誕生 「取り残されていく感情」1年前の休場、心強くした

【大関・貴景勝誕生(下)】

 上位勢が高齢化している大相撲界にあって、22歳の貴景勝が大関に昇進する。歩んできた道のりや強さの秘密を探る。

 ちょうど1年前。貴景勝は病院のベッドにいた。以前から痛めていた右足の状態が悪化し、春場所11日目に休場、入院を余儀なくされた。「歯がゆかったし、情けなかった。悔しいというよりも、取り残されていく感情」。自分のいない土俵を思うと胸が苦しくなり、大相撲中継を見ることはできなかった。

 この出来事をきっかけに貴景勝は変わった。「化粧まわしをつけて、大銀杏(おおいちょう)を結って、締め込みをつけて。そんな毎日が当たり前だと思っていた。それがいかにありがたいことか」。支えてくれる周囲への感謝の思いは、この経験を経て感じるようになったという。

 昨年は激動の1年だった。新三役で迎えた1月の初場所で負け越し。3月の春場所で入門後初めて休場し、入院した。10月には前師匠の貴乃花親方(元横綱)が日本相撲協会を退職し、千賀ノ浦部屋に移籍。11月の九州場所で初優勝を遂げた。

 重ねた経験の中でも、土俵に立てなかったあの期間が最も心を強くしたと感じている。今場所は序盤戦で3勝2敗と苦しんだ。それでも下を向くことはなかった。「相撲を取れていることが一番ありがたい」。そう繰り返す22歳の横顔に精神面の成長が見えた。

 貴景勝の強みは立ち合いの圧力に、重い突き押し。それだけではない。元小結で相撲解説者の舞の海秀平氏は「当たって瞬時に相手の動きを確認し、ここでもう一つ当たろう、ここは見ようということを探っている。勝つための戦略をより具体的に考える力がある」と指摘する。まわしを与えない取り口を研究し、土俵上でも冷静に状況を捉える判断力がある。 

 「心」がこの1年で大きく成長した一方で、こうした「技」は一足飛びに身についたわけでない。「自分がいつ強くなったのかは分からない。(関取になった)3年前なのか、(優勝した)昨年11月前なのか。毎日強くなるために一生懸命やっている」。本人には、地道な努力を積み重ねてきたという自負がある。

 横綱を目指すには「四つ相撲」を覚えるべきとの声も聞こえる。師弟にその考えはない。師匠の千賀ノ浦親方(元小結隆三杉)は「『押し相撲と言ったら貴景勝』という力士になってほしい」と期待する。貴景勝も「長所を伸ばす。それに磨きをかけてやるしかない」と迷いはない。高みを目指す新たな挑戦が始まる。(浜田慎太郎)

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