トライアウトで「野球じゃない仕事」を見つけた男たち

 「競技や、ポジションによっても異なりますが、スポーツ選手の寿命は概ね、短くなってきている。就職先の縁に恵まれず、犯罪に手を染めてしまう人もいる。自分は奈良産業大学を卒業後、社会人チームでプレーし、30歳手前で戦力外通告を受けた。そのまま営業マンを15年続け、その後、現在の会社に移って、昨年社長になりました。セカンドキャリアに恵まれた分、行き場を失った選手をなんとかしたいという気持ちがあって、ここに来ました。警備会社の社員としては、元野球選手の元気の良さ、ルールを守る姿勢に期待したい」

 昨年まではトライアウトが開催される球場のバックヤードで、一般企業の“スカウトマン”たちが熱心に動き回り、選手に直接声をかけていた。さらに警視庁の第4機動隊の隊員が受付の隣にテーブルを設置し、警察官という仕事に興味を持った選手たちに封筒を手渡していた。今年の現場では、バックネット裏に警察官たちの姿があった。

 隊員の士気や団結を高める狙いで2009年に創部された警視庁の野球部には、現在3人の元プロ野球選手が在籍している。来場していたのは、2005年のドラフトで巨人に3位で指名された加登脇卓真(31)と、ヤクルトの育成選手(2010年の育成ドラフト1位)だった北野洸貴(30)だ。両者は、警視庁第四機動隊に所属し、主に国会や首相官邸、大使館などの警備を担当している。現在武蔵野警察署に勤務する元横浜DeNAの大田阿斗里(2007年高校生ドラフト3巡目、29)も、野球部に所属している。

 加登脇は2008年に戦力外となり、同年のトライアウトに参加するも、声はかからず。その後、独立リーグを経て、2012年に警視庁の採用試験に合格した。

 「独立リーグが終わった時点で、野球から離れようと決めました。自分には家族がいた。声をかけられたわけではなく、自分の意思で警察官採用試験を受けましたね。1年ぐらいはスポーツジムでアルバイトをしながら勉強し、受験に備えました。合格が決まって、ようやく家族を安心させられたと思います。今は警視庁野球部として、クラブチームの全国大会に初出場するのが夢です」

 北野は在籍わずか2年でヤクルトを戦力外に。その後、会社員を務めていたところ、営業先の警視庁で、同庁の担当者に誘われ、転職した。

 「ずっと野球漬けの日々だったので、試験勉強が難しくて(笑)。やっぱり、1年ぐらいかけて準備しました。今回のトライアウトでは、ヤクルト時代のチームメイトにパンフレットを渡したりしています。野球をやってきた人は、視野が広い。警察官も、安全確認とかで、いろいろなところに目を向けなければならないので(笑)、野球選手は警察官に向いていると思います」

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