イエメン:南部アデンで新型コロナウイルスによる死者急増 さらに多い可能性も

国境なき医師団

 イエメン南部の都市アデンで国境なき医師団(MSF)が運営する新型コロナウイルス感染症治療センターで、大勢の死者が出ている。すでに症状が悪化した状態で搬送されることが背景にある。MSFは、自宅でさらに多くの人びとが発症していると懸念。危機の拡大にあたり、国連と援助国に対し、さらに迅速な対応を取るよう訴えている。

MSF病院の屋上から見たアデンの街=2018年12月 (C) Agnes Varraine-Leca/MSF

入院患者の4割近くが死亡

 同治療センターは、イエメン南部で唯一の新型コロナウイルス感染症専門の医療施設。4月30日から5月17日までに入院した173名の患者の内、少なくとも68名が死亡した。搬送されてきた患者の多くは、到着時すでに急性呼吸不全の状態に陥っており、救命は困難を極めている。

 イエメンのMSFオペレーション・マネジャーを務めるキャロリン・セガンは「私たちが治療センターで目にしている感染者数と死者数は、氷山の一角です。大勢の人が、手遅れになってから受診しています。受診していない人はもっと多く、数多くの人が自宅で亡くなっているのは明らかです」と話す。

 さらに多くの人びとが自宅で発症、病院と同様に大勢が自宅で死亡しているとみる根拠は、イエメン政府の埋葬統計に示されている。新型コロナウイルスの流行以前は1日10人程度であった市内の死者数は、この1週間で1日約80人にまで増加している。加えて、センターで治療を受けている医療従事者の数と、罹患したMSFスタッフの数の多さも、流行の拡大を裏付けている。

物資と人材をイエメンに届けるために

 セガンは、「国連とイエメンを支援する資金提供国は、窮地に立たされたイエメン国民のために、より多くの支援を緊急に講じる必要があります。特に、医療従事者の給与に充てる財源の確保と、医療スタッフ用の防護具の調達が急務です。また、患者の呼吸補助に使う酸素濃縮器も大幅に不足しています。イエメン当局は、新型コロナウイルスへの対応に当たっているMSFのような組織の活動を後押しし、医療物資や国際スタッフを現地に送れるよう最善を尽くす必要があります」と訴える。

 アデンの同治療センターはMSFが5月7日から運営。現在、イエメン人スタッフと外国人派遣スタッフが24時間体制で勤務している。セガンは、「ここでの患者の高い死亡率は、欧州の集中治療室と同等です。しかし特徴的なのは、フランスやイタリアよりもずっと若い患者が亡くなっているということです。ほとんどが40歳から60歳の男性です」と説明する。

紛争で破壊された医療体制

 5年間続く紛争によりイエメンの医療体制は崩壊し、新型コロナウイルスが現れても、アデン市当局には流行に対応できる体制が整っていなかった。スタッフの給与も、個人用防護具も検査キットも不足しており、正確な感染者数は不明だ。しかし、MSFの病院で亡くなっていく患者たちは明らかに新型コロナウイルス感染症の症状を見せていた。当地では、マラリアやデング熱、チクングニア熱などが流行するが、これほど短い間に今回ほど大勢の死者が出たことはない。

 セガンは「市内では複数の病院が閉鎖を余儀なくされるとともに、医療従事者用の防護具の不足が続いています。特定の症状がある患者が受け入れを拒否されることもあり、MSFは懸念を強めています。流行によって他の病気の対応にしわ寄せが来ている状況です」と話す。

 アデンにあるMSFの外傷病院は現在も診療を行っており、他の病院が閉鎖し始めてから、入院件数が増加した。同院では、職員や患者の安全確保のため、トリアージや他の予防措置を講じるほか、感染の症状がみられたスタッフは直ちに帰宅させ、自主隔離させている。

 セガンは「私たちはベストを尽くしていますが、MSFだけでこのウイルスに立ち向かうことはできません。イエメンの人びとにこの危機への対処を任せきりにすることは、国際社会にとって許されることではありません」と訴える。

 MSFは1986年にイエメンで活動を開始し、2007年以来常駐している。2019年には、国内13県で合計12カ所の病院や診療所で医療援助を行ったほか、20カ所余りの医療機関を支援した。首都サナア市では地元当局を支援して新型コロナウイルス感染症治療センターで患者の治療を担当。また、ホデイダ市、ハッジャ市、ハイダン地区、ハメル地区などの各地で当局の対応を支援している。

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