陸上「イージス」配備断念!河野防衛相決断の真意は… 落下の危険性と高額コスト 識者「北に対抗するため日米で次世代システム開発も」

 日本の安全保障は大丈夫なのか-。河野太郎防衛相は15日、地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の配備計画を停止すると発表した。迎撃ミサイルのブースター(推進エンジン)が演習場外に落下する危険性を排除できないうえ、巨額のコストも問題となった。ただ、北朝鮮は30~40発の核弾頭を保有し、ミサイル技術も年々向上させている。計画が白紙となれば、日本は弾道ミサイル防衛(BMD)計画を根底から作り直さなければならない。迎撃ミサイルを共同開発してきた米国との同盟関係に影響はないのか。「次世代の迎撃システム」を日米で共同開発する案とは。複数の識者に聞いた。

 「イージス・アショアの配備は、防衛計画大綱にも明記している。とりあえずの『計画停止』だが、別の候補地が見つからなければ『中止』になりかねず、大変な話だ。自民党にも事前の相談はなかった。機密保全に配慮したのだろうが、残念だ」

 自衛隊OBで「ヒゲの隊長」として知られる、自民党参院議員の佐藤正久前外務副大臣は、こう語った。

 イージス・アショアは、イージス艦と同様の高性能レーダーと、ミサイル発射装置で構成する地上配備型の弾道ミサイル迎撃システム。北朝鮮の弾道ミサイルへの対処を目的に導入が進められていた。陸地にあるため、イージス艦と比べて常時警戒が容易で、長期の洋上勤務が必要ないため部隊の負担軽減につながるとされた。

 ところが、日米で協議を進めるなかで、迎撃ミサイル発射後に分離されるブースターを海上や演習場内に落下させるには、ソフトウエアだけでなく、ハードウエアの改修が必要だと判明した。5月下旬には、10年以上の開発期間と、数千億円の費用がかかると分かり、「計画停止」もやむを得ないと判断した。

 河野氏は15日、「コストと配備時期に鑑みてプロセスを停止する」「当面はイージス艦でミサイル防衛体制を維持する」と記者団に説明した。

 安倍晋三首相には12日に報告し、了承を得たという。今後は国家安全保障会議(NSC)に報告したうえで、閣議で正式に計画停止を決定する方針。

 気になるのは、日本の安全保障体制だ。

 現在、日本の弾道ミサイル防衛は、海上自衛隊のイージス艦の迎撃ミサイルと、航空自衛隊の地対空誘導弾パトリオット(PAC3)の2段構えだ。これにイージス・アショアを加えて3段構えにする計画だった。

 北朝鮮は昨年13回、今年は4回の弾道ミサイルを発射した。従来型の液体燃料に比べて、機動性に優れる固体燃料を使ったミサイルの開発が進展しているうえ、発射後に軌道が変わるミサイルもあり、迎撃が困難になりつつある。核弾頭も着々と増やしている。スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は15日、北朝鮮の保有数は昨年の20~30発から30~40発に増加したと発表した。

 軍事ジャーナリストの井上和彦氏は「今回の計画停止で、『イージス・アショアが不要になった』と考えるべきではない。イージス・アショアのレーダーによる覆域の広さは、日本の防衛を考えるうえで重要な役割を果たす。日本としては依然として3段構えの弾道ミサイル防衛が必要だ。北朝鮮に備えるだけでなく、日本に弾頭ミサイルの照準を向けているとみられる、中国やロシアといった脅威に備える面にも注目すべきだ」と語る。

 評論家で軍事ジャーナリストの潮匡人氏は「なぜ、このタイミングで発表したのか疑問だ。(ブースターの)問題点は、当初から言われていたことだ。北朝鮮がミサイルを発射する兆候もあるなか、世界に向けて『(日本の防衛は)穴だらけだ』と示したに等しい」と指摘する。

 日米同盟への影響も懸念される。

 潮氏は「日米間でイージス・アショアは契約済みだ。莫大(ばくだい)な解約料を払うか、THAAD(高高度防衛ミサイル)を代わりに購入するかという問題もある。計画停止を前向きにとらえ、中国やロシアの極超音速ミサイルや、北朝鮮の軌道が変わるミサイルに対処するため、日米で次世代の迎撃システムを共同開発することも考えられる」と語った。

 ミサイル防衛全体だけでなく、日本の防衛体制を見直す案もある。

 前出の佐藤氏は「イージス・アショアが計画停止となれば、イージス艦は日本海周辺などに張り付くしかなく、南西諸島の守りが手薄になりかねない。中国の軍事的台頭を考えれば、大きなマイナスだ」と指摘したうえで、続けた。

 「これまでは、『盾と矛』の『盾』の部分を強くしてきたが、これからは『矛』の能力、例えば、(専守防衛の範囲で)『敵基地攻撃能力』につなげる議論が出てくる可能性もある。『盾』についても、イージス・アショアや、数少ないPAC3に限らず、地対空ミサイル(中SAM)にも弾道迎撃ミサイル能力を持たせる議論があってもいい」

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