ヘイト規制条例「表現の自由」萎縮懸念 拡大解釈の余地も

 ヘイトスピーチ(憎悪表現)対策として全国初の刑事罰を盛り込んだ差別禁止条例が12日、川崎市議会で成立した。条例をめぐっては、識者の間で歓迎の声が上がる一方、表現の自由を萎縮させかねないと懸念する指摘もある。

 ヘイトスピーチを規制する条例は平成28年7月施行の大阪市を皮切りに、今年4月には東京都でも施行された。いずれも川崎市と同様、「朝鮮人は出て行け」などと叫ぶヘイトデモが社会問題となった自治体だ。

 この日の条例制定を受け、在日韓国・朝鮮人らでつくる市民団体は記者会見し、「差別で人を傷つけることの責任が明確化された」などと評価した。

 東京造形大の前田朗(あきら)教授(刑事人権論)は「ヘイト処罰は国際人権法の要請。憲法に従ってヘイトを処罰するべきだ」と川崎市の条例制定を評価する。

 28年6月に施行された国のヘイトスピーチ解消法は国民の啓発、教育を目的とした理念法で、どのような言動がヘイトに当たるのか曖昧だった。このため、川崎市の条例では具体的な禁止行為を明示。(1)日本以外の出身者に対し居住地域から退去させることを扇動、告知する(2)生命、身体、自由、名誉、財産に危害を加えることを扇動、告知する(3)人以外のものにたとえるなど著しく侮辱する-と規定した。

 だが、条例は特定の国や地域の出身者に差別的な言動を禁じる一方、日本人を刑事罰の対象から外した。

 麗澤大の八木秀次教授(憲法学)は「構成要件は限定しているが、なお不明確なところがあり、正当な言論に対する萎縮効果を持つ可能性がある」と語る。拡大解釈の余地が残り、南京事件や慰安婦問題などをめぐる日本側の正当な主張が「差別的言動」と取られる恐れもあるためだ。

 違反者に勧告や命令を行う際は、有識者でつくる審査会に意見を聴くことになっているが、緊急を要する場合は「この限りではない」とも規定。行政法に詳しい北口雅章弁護士は「運用次第で一定の政治的表現を萎縮させ、社会的な対立を誘発する可能性はないか」と懸念を示す。

 立教大の服部孝章名誉教授(メディア法)は「表現活動の自由が脅かされる恐れがあるため、条例の適用には相当慎重な運用が求められる」と話した。

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