「医療的ケア児」知っていますか 支援実現で通学がいつものことに

 日常的にたんの吸引などが必要なため、通学バスで学校に通えない医療的ケア児(ケア児)を、看護師らが同乗する介護タクシーで通学支援を行う仕組みを大阪府が今年度から試験導入した。制度を利用し6月から学校に通うことができるようになった大阪府泉佐野市の中学2年生、植野翼さん(14)と家族が取材に応じ「学校へ通うことがやっと『いつも通りのこと』になった」と喜びを語った。 (木ノ下めぐみ)

 「学校はめっちゃ楽しい。(次の登校日に)はよならんかな、ていつも思ってる」

 翼さんは、生まれながら徐々に筋力低下や筋萎縮が進行する「脊髄性筋萎縮症」(SMA)を患っている。10万人に1、2人という難病。制度を活用して週1度学校に通うようになり、まもなく半年となる。

 両手の指はわずかに動くが、自力で体を動かすことはできない。会話はできるが、呼吸器を装着しており、たんの吸引は欠かせない。通学時も医療的ケアの必要があり、これまで通学手段がなく学校に通えなかった。

 小学校のころから、訪問教育を受けて勉強を続けてきた。運動会など学校行事に参加することはあったが、教室で授業を受けたことはなく、幼い頃から「学校へ通うこと」があこがれだった。

 通学日だった11月20日朝、ベッドに横たわる翼さんは介護タクシーが来るのを今か今かと待っていた。同居する祖父、幸蔵さん(79)と祖母、スミヨさん(76)が「いつもなら起こさないと寝ている翼が、水曜だけは午前5時には自分で起きる。学校が楽しくて仕方ないみたい」と目を細める。

 午前8時すぎに車が到着し、同乗する女性看護師が翼さんの体調を確認し、たんの吸引などを行い、男性運転手が翼さんをベッドから玄関先の車いすまで抱えて運び、車いすごと車内に入った。

 玄関で様子を見守る幸蔵さんは「昔は自分が翼を抱えられたが、体も大きくなって、もう難しい。皆さんの協力があってこその通学。ベッドの上だけだった翼の世界が大きく広がった」と喜ぶ。

 車に看護師とスミヨさんが乗り込み、20分ほどかけて約6キロ離れた府立岸和田支援学校へ。翼さんは「行ってきまーす」と車窓から大きな笑顔で指先をひらひらと振った。

 教室では、級友の出欠確認を行う「呼名(こめい)係」。大役に「楽しいっちゃあ、楽しいかな」とはにかんだ様子で語る。他の生徒が少しおどけた回答で笑いを誘うと声を上げて笑ったり、真剣な表情で答えを考えたりと、充実した様子で授業時間を過ごしていた。

 日直当番が当たっていたこの日は、教室に「これで授業を終わります」と翼さんの声が響いた。学校へ行けない時間が「すごく暇。寂しい。考えられへん」と次の水曜が待ち遠しい。

 学校側も滞在時間や日数を増やしたい意向だというが、呼吸器の管理が複雑なほか、翼さんにとっての給食は胃ろうに栄養剤を流し込む必要がある。担当教諭が「皆が給食を食べる教室で一緒に栄養補給できるように」と研修を重ねるなどして、受け入れ準備を進めているという。

 学校に通い始めて特にうれしかったのは親友ができたこと。大好きな仮面ライダーやウルトラマン、ポケットモンスターについて「こないだのテレビ見た?」と友達同士で盛り上がる。翼さんにとって学校は「いつも通り(の場所)!」。学校に通うことが、日常になりつつある。

 ■以前は救えなかった命も医療の進歩で

 医療的ケア児とは、人工呼吸器などをつけて家で暮らしたり、喉につけた管からのたん吸引を行ったり、チューブを使って胃に直接栄養を送る経管栄養などをしていたりする子供のことを指す。新生児医療の発達を受け、以前ならば助からなかった命が救えるようになった一方、こうしたケアが必要な子供も増える傾向にあるという。

 文部科学省によると、医療的ケアが必要な幼児・児童・生徒数は、平成18年度には5901人だったが、29年度には8218人にまで増えている。

 大阪府の場合、約490人のケア児がいるが、約160人は保護者などの送迎が必要で、送迎手段がない約30人は学校には通えず、教諭の訪問授業を受けている。大阪府は今年度から看護師同乗の介護タクシーでの通学支援を5人に試行。来年度からは希望者全員に実施する方針だ。

 ケア児の通学支援は、東京都など一部の自治体でも導入されているが、「看護師確保が全国的に課題で、利用したくともできない子供が多い」(担当者)という。大阪府の酒井隆行教育長は「全ての子の学びを支えるのが教育の役目。地域差が生じないよう国全体で取り組むべきだ」と話す。

 障害児理解の活動に取り組む大阪府岸和田市の市民団体「いっしょにね!!」の高田美穂代表(59)は、メンバーにケア児の保護者もおり、通学に付き添う苦労を間近で見てきた。「24時間常に気を抜けない生活で、学校だけでも子供を任せられれば親の負担も和らぐ」と支援事業に期待を寄せている。

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