「煮え切らない」脱却の岸田氏 ポスト安倍へ憲法シフト明確

【政界徒然草】

 自民党の岸田文雄政調会長が次期総裁選への出馬を見据え、発信を強めている。安倍晋三首相が宿願とする憲法改正の機運を盛り上げようと憲法をテーマにした地方政調会を初めて開くほか、年明けには書籍を出版する予定だ。記者会見の曜日の変更など“伝わり方”にも気を配る。先の党人事では幹事長の座を逃し、「ポスト安倍」のライバルたちも台頭しているだけに、あらためて存在感を高める狙いがありそうだ。

「多様性」「ほっとできる国」

 「その人の元でどんな時代が来るのか、そういうことをしっかり示さないと国民も選びようがない。政策やどんな社会にしたいか発信しなくてはいけない」

 岸田氏は9日のBS11番組で「ポスト安倍」に向け、自身の考えを積極的に発信する考えを示した。キャスターが「奥ゆかしく、あまり自分を出すことをしなかった」と評すると、岸田氏は「ポスト安倍時代はいつか必ず来る。その時代は誰かが担わなくてはいけない」と応じた。

 番組では「自由や個性、多様性を尊重できる社会」や「ほっとできる国」など、自身の目指す国家像や社会に言及した。年明けには、自身の考えをまとめた書籍を出版する計画も進めている。

 出演後には、記者団に「(自民党)総裁選という制度がある以上、禅譲なんてありえない。闘わなければいけない」と述べ、首相からの禅譲頼みとの見方にクギを刺した。

 翌10日に衆院予算委員会で質問に立った際には、北朝鮮の弾道ミサイル発射をめぐる政府の対応に関し、「歯がゆさを感じている。発射のたびに『米国と連携して対応する』との説明だけでは国民の不安が募る」と苦言を呈した。

 自分の主張や手柄を喧伝する政治家が多い永田町で、岸田氏は自分の実績などを語りたがらないタイプだ。政調会長としても自身の主張を押し通すのではなく、党内の意見に耳を傾け、結論をまとめるケースが多い。

 前回の平成29年衆院選で、官邸が消費税の使途を変更して幼児教育・保育の無償化を打ち出した際には党内で批判が噴出した。当時、岸田氏は族議員の重鎮を細かく説得に回り、党内の反発を鎮めた。だが、根回しをあからさまに語ることはない。

 一方で、こうした岸田氏の姿勢は周囲から「何をしたいかわからない」「決断できない」などの批判を招いてきた。昨年の党総裁選では自らが率いる岸田派(宏池会)内に主戦論もある中、最終的に自身の不出馬と首相支持を表明したが、「煮え切らない」と揶揄(やゆ)された。

「決めたことはやりぬく」

 ただ、ある岸田派幹部は岸田氏について「頑固なまでに1度決めたことは絶対にやりぬく性格だ」と評する。岸田氏と安倍首相は平成5年の初当選同期で関係も近く、「岸田氏の頭には最初から首相と闘う選択肢はなかったのではないか」(幹部)とみる。

 そんな岸田氏に“変化”が見えたのは9月の党人事で政調会長留任が決まってからだ。首相は一時、岸田氏の幹事長就任も検討し、本人も意欲を示していたが、最終的に二階俊博幹事長を続投させた。

 岸田氏は留任が決まった直後の9月21日、出張先のシンガポールで、憲法改正を推進するため、改憲をテーマにした地方政調会を開催する考えを表明し、“憲法シフト”を鮮明にした。10月28日の埼玉を皮切りに、地元の広島や福島で順次実施する。

 名誉会長の古賀誠元幹事長が「憲法九条は世界遺産」と題した著作を出版するなど派内には9条改正に慎重な意見もある。ただ、岸田氏は「平和主義という大原則は変わらない」として、改憲に挙党態勢で臨む首相と歩調を合わせる。

 テレビだけでなく、10日発売の月刊誌「文芸春秋」のインタビューでも「(次期総裁選に)立つ」とこれまでにない表現でポスト安倍への意欲を語った。

 岸田派の会合では、関西電力の役員らが多額の金品を受領していた問題を強く批判。政調会長として北朝鮮問題や災害に関する党の会合を積極的に開いており、二階氏への対抗意識も見える。

 10月から定例記者会見をこれまでの水曜から月曜に変更したのも発信強化の一環だ。月曜は党幹部や閣僚らが記者会見する機会が少なく、メディアに取り上げられやすいことを踏まえた。

 「首相は岸田氏を後継の1人として持ち上げようとしているが、いったん首相になれば、野党も党内の反対派も降ろそう降ろそうとする。岸田氏はそれに耐えられるのか」

 こうした党内の声をはね返すためにも、岸田氏の試行錯誤は続く。(政治部 田村龍彦)

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