タクシーは“センシングカー” 配車アプリ、真の狙いはビッグデータ活用 

【経済インサイド】

 スマートフォンアプリを使ってタクシーを呼ぶことができる配車アプリ。IT企業の参入が相次ぎ、全国での普及に向けた割引キャンペーンを繰り広げている。だが、割引サービスや全国展開などの投資が各社の負担になっており、見合う利益はすぐには得られない。それでも手綱を緩めない本当の狙いは、タクシーを“センシング(計測)カー”として集めた膨大な情報(ビッグデータ)が、次のビジネスにつながるからだ。

 「自動運転は将来的に見ているところではある」

 ソフトバンクと中国の配車最大手、滴滴出行との合弁会社DiDi(ディディ)モビリティジャパン(東京)の菅野圭吾副社長は、配車サービスを通して将来的に展開したい事業についてこう語った。

 人工知能(AI)を活用した配車までの時間の短さをアピールするディディは、昨年9月から大阪でサービスを開始したのを皮切りに、今年4月には東京、9月には山口と全国展開を進めている。展開地域を決める上で重視しているのは、中国最大手の滴滴の合弁会社ということもあって、中国人訪日客と日本人の両方の利用者が見込まれることだという。

 また、同じソフトバンク系の会社と連携したキャンペーンを展開。幼稚園と保育園向けにクラウドサービスを提供するハグモー(東京)の利用者向けには、ディディの無料クーポン2000円分を10月にプレゼントする。

 こうした全国展開とキャンペーンで普及を進めてデータを集め、将来的に目指すのが自動運転というわけだ。菅野氏が「大前提のデータ」と指摘するのが、どういう天気、どういうイベントがあるときに、利用者がどこにいて、タクシーがどこにいるのかをAIで分析して予測する「人と車の流れをわかるようにすること」だ。

 利用者とタクシーの需要と供給が明らかになれば、「どうすれば渋滞を解消できるのか、タクシーや電車など移動の最適化をユーザーにどう提供すればいいのか、わかるようになる」という。自動運転などの新しいサービスを展開するに当たって、菅野氏は今後、ソフトバンク系で自動運転を運営するSBドライブや、ソフトバンクがトヨタ自動車と合弁で設立した新しい移動サービスの提供を目指すモネ・テクノロジーズとの協業も視野に入れる考えを示した。

 3月末までの1年間に配車アプリのダウンロード数で首位だった、日本交通系のジャパンタクシーも配車サービスの拡大を通して得たデータの活用を進める方針だ。全国でサービス地域を拡大して普及を進める一方で、タクシー配車で得たデータを活用する部署を設置。「タクシーをセンシングカー」(岩田和宏最高技術責任者)と捉えてさまざまな実験をしており、年内の事業化を目指している。

 岩田氏は「ドライブレコーダーやさまざまなセンサーを備え付けたタクシーを通常通り営業するだけで、タクシーの経路情報や位置情報が入ってくるので渋滞予測がリアルタイムでできる」と説明する。さらに、車外に向けたドライブレコーダーを活用して、事件や事故が起きたときの防犯用途としての映像の活用や、ワイパーをいつどれだけ動かしたかでリアルタイムの天気情報の把握、花粉センサーを備えることで詳細な花粉の飛散量の検知ができるようになるという。

 配車アプリ「MOV(モブ)」の全国展開を進めているディー・エヌ・エー(DeNA)は、モブを導入したタクシードライバー向けに、AIがタクシー利用者のいそうな場所を予測して提案するシステムを提供しているが、AIと車内外の映像を映す車載器や加速度センサーを組み合わせて、交通事故を削減するサービスの提供を6月から始めている。

 配車アプリ各社は今後、より多くの情報を得るために全国にサービスを展開する必要があるが、かさむ投資がネックとなる。

 ちなみに、スマホアプリによる決済サービスも、配車アプリと同様に全国での普及を目指して過剰なサービス合戦を展開しているが、バラマキで利用者を集める大手は、利用履歴というビッグデータを入手し、効率的な広告出稿につなげることで、投資の回収と黒字化を目指している。

 配車アプリでも、ビッグデータから派生した事業で投資を回収するというビジネスモデルを構築できるか。あるタクシー配車会社は「まだ投資の段階で、過度のバラマキをするつもりはない。将来伸びるサービスとなるかを冷静にみているところだ」(幹部)と述べており、今後は競争の激化により事業からの撤退や統合も予想される。(経済本部 大坪玲央)

アクセスランキング

もっと見る

ピックアップ