2度延期した安倍首相 「消費増税」選挙制し三度目の正直

【迫る10% 消費税を問う】(4)  

 自民党は7月の参院選で、予定通り10月に消費税率を10%に引き上げる方針を掲げて勝利した。増税を掲げて勝つなど前代未聞だ。首相の安倍晋三は、その意義を周囲にこう語る。

 「国民は(増税の必要性を)わかっている」

 米中貿易問題で不透明感が強い中での増税には、景気減速の懸念がくすぶる。ただ、安倍は「財務省には(税率を)上げないかもしれないと思わせつつ、景気対策を考えさせた」と語るほど周到な準備も重ねた。

 2度増税を延期した安倍には、消費税に対する“トラウマ”があるとささやかれてきた。安倍が平成24年に首相に返り咲いて以降、7年もの長期政権を維持しているのは、安定した経済運営があってこそだ。

 景気悪化を招けば国民の支持を失い、政権が倒れる恐れもある。そうなれば、戦後外交の総決算として挑む拉致問題や北方領土問題の解決、悲願の憲法改正は一気に遠ざかるだろう。

 霞が関で語り草になっているのが「今井ペーパー」だ。28年5月の主要国首脳会議で、首相秘書官の今井尚哉らが世界経済に危機が迫っているとした資料を配り、各国首脳を驚かせた。

 翌月、安倍は増税延期を表明。財務省幹部は「世界経済は増税を延期するほど深刻ではなかった。首相は本当に増税が怖いんだなと思った」と振り返る。

 安倍はいつトラウマを払拭したのだろうか。

 増税を決めた時期については「決まっていたことを予定通りやるのだから『決断』は必要ない」と述べるにとどめている。だが、29年10月の衆院選と30年9月の自民党総裁選が契機となったのは間違いない。

 安倍は公約の柱に消費税増税と増収分を財源とする教育無償化を掲げて衆院選に圧勝し、翌年の党総裁選で元幹事長・石破茂との一騎打ちを制した。増税を掲げた選挙は負ける-という戦後政治のジンクスをひっくり返した初のケースだ。ある経済官庁幹部は「首相は選挙で勝って(増税に)自信を持った」と話す。

 一方、別の経済官庁幹部は安倍の決断の背景を「教育に熱心で、増収分が幼児教育無償化の財源になることが大きい」と解説する。

 税率10%への引き上げは、旧民主党政権下の24年8月に成立した社会保障と税の一体改革関連法に明記され、増収分は年金、医療、介護、子育ての政策に充てることとされた。安倍にとって増税は「政権奪還に伴いくっついてきた」(財務省幹部)という受け身の意識が強かった。

 一方、幼児教育無償化は事実上、義務教育を低年齢化させる意味合いも持ち、安倍は「画期的ですごいことなんだ」と語る。自民党の改憲4項目で教育の充実として打ち出した「各個人の経済的理由にかかわらず教育を受ける機会を確保する」との考えと重なる。

 景気悪化を防ぐためポイント還元制度も中小事業者に適用する。安倍は、26年4月に税率を8%に引き上げた際に消費が失速したことをよく覚えている。

 安倍にとって、消費税はレガシー(政治的遺産)になる可能性が高い。

 元年の消費税導入時は、物品税廃止と法人税、所得税の引き下げを同時に実施。9年の5%への引き上げ時も所得税と住民税減税がセットだった。一方、安倍政権下の増税は、自動車や住宅など限定的な減税は行うものの純粋な増税だ。

 「財務省より経済はわかっている」

 増税延期の観測がくすぶるたびに安倍はこう周囲に語ってきた。日本は消費増税に耐えられるか。安倍の自信が本物かどうかはもうすぐわかる。=敬称略

【用語解説】今井ペーパー

 平成28年5月、日本で開催された主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)の閉幕後の記者会見で安倍晋三首相は消費税の増税延期を示唆し、その後正式に表明。増税延期の理由付けとして、今井尚哉首相秘書官らは、新興国経済の減速などで「世界経済はリーマン・ショックの前夜に似ている」とした資料を作成し、各国首脳にも配布した。

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