波乱必至の「圏域」構想 新たな行政単位に自治体大反発

 急速に進む人口減少に伴い、今後の自治体行政のあり方を議論する「第32次地方制度調査会」(首相の諮問機関、地制調)の議論が大荒れになっている。過疎化などに対応するため、政府は新たな行政主体として複数の市町村で構成する「圏域」という構想を検討しているが、当事者の地方6団体側から異論や反発が一斉に噴出したのだ。政府は「枠組みありき」という自治体の根強い不信感を払拭し、地方創生へとつなげられるか。

 これまで、市町村の枠組みを超えた広域連携は、ゴミ処理の事務組合など、緩やかな形で幅広く行われている。これに対し、政府内で浮上する「圏域」は「新たな行政単位」という位置づけで、圏域内の公共施設の統廃合なども視野に入る。

 地方6団体側が政府の動きに怒りをぶつけたのは、7月31日の総会だった。

 この日は、地制調の専門小委員会が2040(令和22)年頃に顕在化する課題と対策を整理した中間報告を了承した。

 中間報告は、約20年後に高齢化の加速と深刻な働き手不足、インフラ管理費の増大が見込まれ、「生活を支えるサービス供給が制約される恐れがある」と警鐘を鳴らす内容。医療や環境衛生、防災など広域的な課題に対応するため、生活圏を同じくする自治体間の協力や業務の統合を提唱し「安定して運用できる仕組み」の検討を促した。

 「圏域」構想の具体像こそ示されていないものの、こうした記述に地制調委員の地方6団体の代表らは猛反発した。

 全国町村議会議長会の松尾文則会長(佐賀県有田町議会議長)は「国が一定の枠組みを決めて、自治体を強制的に圏域行政に追い込む仕組みは絶対に作るべきではない」と強調した。

 全国市長会の立谷秀清会長(福島県相馬市長)は「自治体連携はテーマごとにやるものだ。行政のスキームとして圏域を考えるのは危険ではないか」と主張した。全国市議会議長会の野尻哲雄会長(大分市議会議長)も「圏域設定が既成事実化しているならば、地方自治制度の大転換だ。なし崩し的に変容を迫る審議の進め方は信頼を大きく損なう」と牽制(けんせい)した。

 地制調の市川晃会長(住友林業社長)は「圏域を前提とする枠組みありきの議論は全くない。現行制度の問題点を含め、これから議論を進めていく」と釈明を余儀なくされた。

 地方6団体側がここまで警戒する背景には、総務省の有識者研究会が昨年7月に公表した報告書がある。

 「自治体戦略2040構想研究会」(座長=清家篤・慶応義塾学事顧問)は報告書で2040年頃に顕在化する課題を見据え、次のように危機感を示した。

 「個々の市町村が行政のフルセット(完結)主義から脱却して圏域単位での行政をスタンダードにし、都市機能を守り抜かなければならない」「個々の制度に圏域をビルトインし、連携を促すルールが不可欠だ」

 都道府県や市町村にしてみれば、現行の行政枠組みを解消するかのような書きぶりといえる。さらに次の提言は、自治体関係者に衝撃をもたらした。

 「圏域単位で行政を進めることを認める法律上の枠組みを設け、中心都市のマネジメント力を高めて合意形成を容易にする方策が必要ではないか」

 つまり圏域の法制化である。総務省幹部は報告書の提言について「将来の課題を前提とした枠組みを考える以上、提言はエッジがきいたものになり、現実との間にギャップが生じる」と述べ、「地方6団体の反発は予想していたが、ここまで厳しいとは思わなかった」と語った。

 安倍晋三政権は地方創生を看板政策に掲げ、6月に閣議決定した経済財政運営の指針「骨太方針」でも「一定の人口を有する圏域を形成し、医療・交通・産業などの分野における近隣市町村の連携を促進する」と明記している。

 人口減が止まらない中、一つの市町村で全ての業務を担うのは限界がある。自治体が変化を迫られることは間違いない。一方で、地方6団体に渦巻く不信感を払拭できなければ、一丁目一番地の地方創生も“看板倒れ”になりかねないリスクをはらむ。

 先の総務省幹部は「圏域という言葉が一人歩きし、法制化が既成事実のように思われているが、それは違う。現実を無視して一足飛びに制度を改めようとは思っていない」と説明する。

 その上で「現行の広域連携の枠組みをベースに議論を進め、自治体側の意見も聴きながら、住民に求められる行政サービスを実現する自治体のあり方について認識をすり合わせていく」と話した。

 地制調は委員の任期満了を迎える来年7月までに答申をまとめるが、合意形成までの前途は多難だ。(政治部 清宮真一)

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