日本にスパイ罪はない 「西新井事件」で工作員を逃した法の壁:イザ!

2013.12.16 12:34

日本にスパイ罪はない 「西新井事件」で工作員を逃した法の壁

 【再び、拉致を追う】第10部 明日への提言(2)

 昭和60年3月1日早朝、外事警察の捜査員たちは緊張した面持ちで東京都足立区西新井本町のマンション前に立っていた。ここをはじめ十数カ所の家宅捜索が一斉に始まった。

 戦後史に残るスパイ事件「西新井事件」の捜査が本格化した瞬間だった。北朝鮮工作員が身寄りのない日本人男性の戸籍を買い、男性になりすまして十数年にわたって活動していた事件だ。

 この捜索の3年前、捜査の端緒となった情報を警視庁にもたらしたのは韓国情報機関だった。「小住健蔵なる日本人は北朝鮮のスパイだ」。「小住さん」は数年前から突然、活動が活発になり、免許や旅券を取って会社まで起こしていた。「小住さん」になりすましていたのは朝鮮労働党対外情報調査部の工作員、チェ・スンチョルだった。

 中肉中背、引き締まった顔付きで目立たない男。40代のチェは用心深く行動していた。内偵を始めた捜査員はあることに気づく。自分たちの他にも複数の組織が追尾している。韓国情報当局、それを警戒する在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)、そして謎の日本人だった。

 「調べて驚いた。米CIA(中央情報局)が日本人に作らせた探偵社で30人もの要員を抱えてチェを追っていた」。対北情報捜査の現実がそこにはあった。チェの正体は極東地域の大物工作員だった。

 背後に迫る捜査を感知したチェは、58年にマレーシアに出国し、こつぜんと姿を消した。

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