脚曲がらずとも懸命に前へ 64年五輪出場の東美代子さん

 「拍手が聞こえて感動した。精いっぱい頑張れた」。走り終わった後、晴れやかな表情でこう語った。1964年東京五輪競泳女子代表で、11日に奈良県の聖火ランナーを務めた東(あずま)美代子さん(75)=同県下市町。約20年前に遭った交通事故で死の淵をさまよい、脚に重い後遺症を抱えているが、併走する長女の豊田美香さん(50)に支えられ、初日の最終走者として大役を果たした。(田中一毅)

 前回の東京五輪では、100メートル自由形と400メートルリレーに出場。現役引退後は小中学校の水泳部を指導してきた。だが、54歳のとき、交通事故で両脚を粉砕骨折。「もって2日の命」と医師から宣告された。奇跡的に回復したが、「歩くことはできない」と言われ絶望した。

 しかし、「なんとかもう一度歩きたい」。その一心で20回を超える手術やリハビリを乗り越え、再び歩けるまでに。左膝は今も全く曲がらないが、約10年前にはパラリンピック出場を目指し、近くのプール施設に通うようになった。だが、薬の副作用など体調が悪化して断念。落ち込む母の姿を見て、「もう一度目標を」とランナー募集に応募したのは美香さんだった。

 当初は「走られへんで」と冗談めかしていたが、徐々に気持ちは前向きに。支えてくれた家族や周囲へ感謝を伝えたい、と練習に励んできた。

 「(ゴール会場の)陸上競技場に入ったときは胸がいっぱいで、頭が真っ白になった。東京五輪に2回携われて幸せ。自分のことながら夢のようだった」

 前回は日の丸を背負うトップアスリートとして、今回は聖火をつなぐランナーとして。57年のときを経て再び五輪に関わることができる幸せをかみしめながら、炎がゆらめくトーチを堂々と掲げた。

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