直木賞の西條さん、「赤毛のアン」の影響で翻訳家目指す 小説は30歳から

 「私にしてはシリアスでちょっと地味な作品。それが評価されたのは若干の驚きもありましたが、非常にうれしいことでもありました」。初のノミネートで直木賞を射止め、控えめに喜びを語った。

 受賞作「心淋(うらさび)し川」は、古びた長屋が立ち並ぶ「心町(うらまち)」が舞台。それぞれに事情を抱えた、寄る辺のない人々が描かれる。

 「宮本輝さんの『夢見通りの人々』が好きで、人が当たり前に生きていく大変さを書きたかった。日頃からニュースやドキュメンタリーを追っていても、コロナで仕事を失ってしまった人とか子供の貧困に目がいってしまう」

 長屋の近くにある、流れのないどぶ川は物語を象徴する存在だ。幼い頃住んでいた場所の近くには、よどんだ川があったという。

 先行きに不安を覚える不美人な妾、今の生活から抜け出したい少女…。登場人物は思い通りにならない現実にもがきながらも、人生に折り合いをつけていく。子供に過剰な愛を注ぐ母親など、現代社会に通じるテーマも描かれた。「大変な暮らしをしていても、それで不幸かというと違う。境遇がいい人も悪い人も、幸不幸の度合いは変わらないと思うんです」

 幼い頃から本が好きで、世界の名作をよく読んだ。その中で影響を受けたのが村岡花子訳の「赤毛のアン」。翻訳家を目指したが、「英語の実力が足りず」挫折した。小説を書き始めたのは30歳ごろだ。

 デビュー作はファンタジーだが、現代ものから時代小説まで多彩なジャンルで活躍する。「人生はいい時も悪い時もある。その時々を切り取って共感できるものを書いていけたら」

(油原聡子)

アクセスランキング

もっと見る

ピックアップ