「病気隠し」は憲法違反のアメリカ トランプ大統領は認知症テストも

元首相主治医が明かす 政治家と病

 安倍晋三前首相が病気で辞任して以来、政治家の健康への関心が高まっている。安倍氏は病名を公表して辞任した戦後2人目の総理だが、アメリカでは大統領は常に健康状態を公表しなければならない。健康診断を受け、その結果を国民に報告するのは、大統領の義務だからだ。

 米大統領選が佳境だが、ドナルド・トランプ大統領は、すでに健診結果を公表している。就任以来3回の健診を行っており、その3回目の結果を専属医、ショーン・コンリー氏が公表している。それによると、「大統領はBMIでは依然として肥満ではあるものの健康」だという。コレステロール値は過去2回と比較して下がったが、高コレステロール血症治療薬「クレストール」を1日当たり40ミリグラム服用している。また、血圧は標準よりやや上昇したという。

 驚くのは、トランプ大統領が認知症のテストまで行ったことだ。このテストは、「person」「woman」「man」「camera」「TV」という5つの単語を聞かされ、ほかの質問に答えた数分後に、その言葉を繰り返すというもの。テレビ出演でこれを公表したトランプ大統領は、「テスト全体で好成績を得た」と強調してみせた。そして、対立候補のジョー・バイデン元副大統領にも、これを受けるようにと挑発した。

 バイデン氏には、かねて認知症の噂があり、トランプ大統領は彼を「スリーピー・ジョー」(眠ったいジョー)と揶揄してきた。

 そのため、バイデン氏も健診を行い、その結果をジョージ・ワシントン大学のケビン・オコーナー医師が公表した。オコーナー医師はバイデン氏を「健康的で元気な77歳の男性であり、大統領の職務を首尾よく遂行し、首席行政長官、国家元首、司令官を任命するのに適している」と述べた。そして、バイデン氏が現在、血液の希釈剤と酸逆流、コレステロール、季節性アレルギーの薬を服用していると詳細に説明している。

 このように、米大統領は常に健康をアピールしなければならないが、それで私が思い出すのは、ロナルド・レーガン大統領である。

 レーガン大統領は、1985年夏に大腸ポリープが悪性と判明し、ただちに切除手術を受けることになった。手術には全身麻酔が必要のため、このとき、約8時間にわたり、ブッシュ(父)副大統領(当時)が大統領権限を引き継いだ。

 これを知って、私は、やはりアメリカだと思った。アメリカでは、1947年の大統領継承法と67年の合衆国憲法修正第25条によって、大統領権限の一時的移譲が決められている。

 レーガン大統領は、その後、87年1月には前立腺がんの摘出手術を受けた。また、この頃から耳が遠くなる、受け答えが遅くなるなどの老化現象を見せるようになった。大統領退任後の94年、自身の認知症(アルツハイマー病)を公表した。

 なぜ、アメリカの大統領はここまでするのか?

 第28代大統領ウッドロー・ウィルソンは、任期を1年残して脳卒中に見舞われた。左半身不随などの後遺症が出ても病状は伏せられ、閣僚らの面会を禁じたうえで、重要案件の決裁などは夫人や秘書官が密かに行った。これが発覚し、憲法修正第25条に大統領権限継承順位が明文化されたのだ。

 ちなみに、日本でも組閣時に総理大臣臨時代理の就任予定者5人を決めるのが慣例になっている。原則として継承順位1位は副総理か官房長官、あとは閣僚の大臣歴、議員歴などを総合的に勘案して指定される。

 ■富家孝(ふけ・たかし) 

 医師、ジャーナリスト。1972年東京慈恵会医科大学卒業。病院経営、日本女子体育大学助教授、細川護煕元首相の主治医、新日本プロレスリングドクターなど経験。「不要なクスリ 無用な手術」(講談社)ほか著書計67冊。

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