難病「脊髄性筋萎縮症」救う1億円超の新薬 「ゾルゲンスマ」投与対象は年間25人

ここまで進んだ最新治療

 今年5月、全身の筋力が低下する難病「脊髄性筋萎縮症(SMA)」の新薬「ゾルゲンスマ」が保険適用になった。話題となったのは、薬価(公定価格)が1億6707万円と国内で保険適用された薬では過去最高額となったことだ。

 SMAは、脳や脊髄などの中枢神経から送られる信号を筋肉に伝える「運動ニューロン」という神経細胞の消失によって起こる。原因の大半は、運動ニューロンを維持するSMNタンパク質を産生する「SMN1遺伝子」の異常によるもの。筋肉が中枢神経からの信号を受信できなくなり、筋肉の低下や萎縮が徐々に進行していく病気だ。

 発症時期によって4つの型がある。全体の60%を占め最も重症のI型は、多くは生後6カ月以内に発症。II型は、通常は生後7~18カ月に発症。III型は、通常は生後18カ月以降、3歳になるまでに発症。非常にまれなIV型は、成人期に軽度の運動障害が認められる。

 ゾルゲンスマは、どんな患者に使われるのか。国立精神・神経医療研究センター/筋疾患センターの小牧宏文センター長が説明する。

 「ゾルゲンスマは2歳未満の患者さんを対象とした点滴治療薬で、投与するのは1回のみです。特にI型は、すぐに運動発達が停止し、体を動かすこともできません。呼吸筋も低下するので、人工呼吸器を用いない場合の死亡年齢は平均6~9カ月とされます。ですから対象の中心はI型の患者さんになります」

 SMAの治療薬は、これまで2017年に承認された「スピンザラ」という薬しかなかった。SMN1遺伝子に異常のあるSMA患者でも、「SMN2遺伝子」という「バックアップ遺伝子」をもっている。しかし、バックアップ遺伝子で産生されるSMNタンパク質は、ごく一部(10%)しか完全な機能をもっていない。

 スピンザラはバックアップ遺伝子に作用して、完全な機能をもつSMNタンパク質を増やす薬。脊髄(背骨)に針を刺して、薬剤を注入することを4~6カ月ごとに一生行う必要がある。

 一方、1回の投与で済むゾルゲンスマは、体内でどんな作用をするのか。

 「この薬はウイルスベクター製品と呼ばれ、正常なSMN1遺伝子をウイルスの殻(から)で包んだ構造をしています。静脈投与するとウイルスの感染力によって脊髄に到達します。そして脊髄内の細胞核内にSMN1遺伝子が取り込まれて永続的に留まり、正常なSMNタンパク質が産生されるようになるのです」。

 海外の治験では、治療を受けた15人全員が2年後も呼吸管理をしなくても生存するなど、良好な成績が報告されている。薬価が1億円超だが、SMAの年間新規患者は約60人で、うちゾルゲンスマの対象は25人程度。医療保険財政に直ちに大きな影響はないとみられている。 (新井貴)

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